映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

クリス・サリバン監督「コンシューミング・スピリッツ」 2660本目

これも、ミニシアターのクラウドファンディングの返礼品。

1本だけ異質な、手書きアニメーションの英語作品です。

とても味のあるイラストで、色合いも独特。濁った彩色にところどころ蛍光色が混じる。登場人物の名前がグレイとバイオレットとブルー。若くて美しい人は一人も出てこなくて、みんなくたびれてちょっと年がいっている。バイオレットが独り言で言い訳をしながら尼僧を車ではねてしまったり、ブルーの父親がずっと失踪したままだったり、実写だったら相当暗澹とした映画になるところが、絵に味がありすぎるのでビジュアルにひたすら集中して見てしまう。で、筋が追えない。でも、見飽きない。

最後にアール・グレイ翁が身の上話をして、すべてがつながる。いろいろうまくいかない家族の愛のお話だったんだなぁ。

(以下ネタバレ)

バイオレットの口うるさい母は「また」毒キノコを食べて、とうとう死んでしまった。そこで彼女は父に連絡を取る。父とはラジオのガーデニング番組で聴取者からの電話を待っているアール・グレイだった。また、バイオレットがはねた尼僧は、子どもを育てられずにグレイ一家に里親に出したことがあり、そのときグレイは彼女と不倫関係におちいったことが離婚の原因だった。そういう因縁のある彼女を娘がはねたのを目撃したので、尼僧を引き取って家で手当てしていたのだった。バイオレットの母の葬儀で家を長く空けていた間に尼僧のケガが悪化して足を切断することになり、救急車を呼んだらグレイは警察へ。一方、昔グレイが預かっていた子どもはブルーだった。彼はバイオレットと同じ新聞社で記事を作っていたが、新聞配達人にされてしまっていた。病院から戻ってきた尼僧は、長い間会っていなかった彼の母で、二人はこれからは同居することになる。一方行方不明だった彼の父は、なんと博物館で鹿の皮を被ったミイラになって展示されていた。事情がよくわからなかったけど彼が鹿の皮を被って森にいた時に誤って撃たれて、そのまま風雨にさらされていた。ブルーは博物館で父親を見てその事情を理解する。ブルーとその母である尼僧を、一人になったバイオレットが訪ねるのを、グレイは窓の外から見ていた。

…把握しきれてない部分もあると思うけど、そういうお話でした。

 

「コンシューミング・スピリッツ」というのは、新聞記事の一部で、酒ばかり飲んでやることもない人たち…というくだりで出てくる「酒ばかり飲む」の部分でした。

これ実写で作ったらどんな感じだろう。どう作ってもこのアニメーションより良くなる気がしません。不思議でどこか暖かい世界観の秀作でした。「音楽」の7年よりずっと長い15年間をかけてこの作品を作ったとかで、次回作が見られるのはかなり先かもしれないけど、また見てみたいです。