映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ワアド・アルカティーブ 監督「娘は戦場で生まれた」2665本目

ドキュメンタリーのdocumentっていう英単語は動詞だと記録するという意味だ。ただ撮るのが本来のドキュメンタリーだと思うけど、この映画ほどひたすら事実を記録したドキュメンタリーって見たことないです。記録した事実を監督の考えに従って並べ替えたドキュメンタリー映画に感情も考え方も持っていかれることが多いなかで、事実だけの力の強さを思い知らされた気がします。

強大な他国がサポートすることで内戦がどれほど苛烈なものになるか。(ワアドさんは常に「ロシアの飛行機が来た」というけど、ロシアに武器や軍用機の提供を受けたアサド政権)まったく何の意図も反抗心もない子供たちまでほんとうに虐殺して都市を壊滅させるというのがどういうことか、ワアドとハムザの前向きな決意や周囲の人たちの温かさだけに引っ張られて、なんとか最後まで見たのでした。

ワアドが、夫婦で娘サマを連れてトルコの親に会いに行った後、国境が封鎖されて戻れないかもしれないときに「なぜかわからないけど、サマを連れて戻るしかなかった」映画を編集しているその数年後においても「あの時に戻れたとしても同じことをしたと思う」というのは、それが彼女であり、それが人間だと思う。嘘のない気持ちを話してくれてよかった。そしてその行動の理由は「サマのため(原題も「For Sama」)、未来のため」といいます。その意味は、今自分が置かれている苛烈な状況を次の世代にひきずらないこと、という意味だと思います。私がワアドだったらそう信じられる行動を取れたら尊敬する、でも私がサマだったら。あなたのためよ、と言って両親とその仲間たちが傷ついたり命を落としたりするのを見ていられるだろうか。結局のところ人はみんな自分のために行動するんだと思います。サマはロンドンで大人になった後、両親の意志を継ぐんだろうか。全然関係ない道を進んでもいいと思います、私は。

で、シリア難民のことをいうと、日本に逃れてきた人も数百人はいるらしいけど、認定された人はわずか数名だそうです。日本にいつづけるために必要な住む場所と仕事をお世話する団体に少しずつサポートをしてるのですが、日本では外国で取った資格や経験が生かせる仕事は少ないみたいで、どんなにがんばっても目覚ましい成果を上げるのは難しそう。今までに日本にいる難民のことを知らなくても、この映画を見たことで興味をもつ人もいるかもしれないですね…。

娘は戦場で生まれた [DVD]

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  • 発売日: 2020/10/02
  • メディア: DVD