映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ロイ・アンダーソン監督「散歩する惑星」2676本目

変な映画だったなぁ。知らずに見たらアキ・カウリスマキ監督の作品だと思っただろうな。

登場人物が全員、顔が白塗りになってる。中盤で登場する、処刑された若者(首からずっと縄を下げてる。ずっと話しかけてくるけど言葉が通じない)も同じ白い顔をしてるので、もしかしたらこの映画の中の人たちはみんな既に死んでるのかも?現代にあってどういうわけか「人身御供」にされてしまう少女も、最後の「売れなかったイエスキリストの磔像」を捨てに行く場所で目隠しをされたまま再登場するし。

景気が悪すぎて、店は焼けるし大量解雇だし誰も性の興味を失ってれうし、キリスト教ももう人気がないし、どうしようもない、という、うすら寒い白っぽい世界。これが北欧…。豊穣や情熱の時代を過ぎて世界が成熟から老成だか老醜だかへ向かっていく、古いヨーロッパらしい人生観があふれています。

メイキングを見ると、スタッフはちゃんと血が流れてる顔色をしてるし映像もクリアで、作ってる人たちは病んでませんでした(当たり前)。ほんと不思議な世界だな…この監督がCFで賞を取りまくってるヨーロッパというところがとても面白い。東アジアはどう老成してもこのような境地にはならない。

一番驚いたのは、ほとんどスタジオ内で撮影してること。背景はほとんどカキワリで、渋滞してる自動車も手描きだし、ごみの中からさーっと走り去るネズミはハリボテだった。ここまで手をかけてなんでこんな映画を撮らなければならないか、というスウェーデン人にほんと興味を惹かれますね。(セットに手をかけて完成まで4年かかったとのこと)

キャスト紹介(写真とテキストだけ)のところで、誰も彼も「レストランで食事をしていたら監督に役者にならないかと声をかけられた」と言ってるのがまた可笑しい。

監督のインタビューで「普通の人たちへの賛歌」って言葉を使ったり、支配者への反発について語ったりするのがまた不思議。日本の私から見ると、普通のちょっとしょぼい人たちをおちょくってるように見える。でも彼らをみんなに見てほしい、ということが監督の想いなのかな。

 ハンマースホイの絵の中で、年取った小人たちがあくせく暮らしているような映像。北欧はまだまだ未知の世界だ…と思い知ってワクワクしてきました。