映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

リズ・ガルバス監督「ニーナ・シモン 魂の歌」2760本目

2015年制作、Netflixオリジナルで日本未公開だけどKINENOTEには登録されています。

「My baby don’t care for me」や「Love me or leave me」はかなり昔に聞いて好きになって、1992年にロンドンにいたときにハマースミス・オデオンでコンサートがあったので、かなり興奮して行ったのでした。彼女は音楽活動をやっと開始して以来ロンドン初の公演だったので、青白い若者たちが涙を流さんばかりに盛り上がってたのが忘れられません。

しかし頑固というか、不愛想というか、ステージパフォーマーとは思えないほど硬いですね。ピアノもクラシックのスタイルです。黒人音楽と聴いて、髪を編み込んでズボンを下げてやるラップを想像する人に聞かせてやりたいくらい端正な音楽。一方で内容は暴力的。

彼女の夫でマネージャーだった人は彼女に稼がせて、殴ったりもしてたんだ。依存関係にあって二人とも別れようとしなかった、と娘が語っています。不思議な気もするんだけど、罰を受けるみたいに辛い目に耐えて、何かの大義のために心を強くするっていう部分が、人間にはあるように思います。怒りの矛先を、自分を殴る夫ではなく、他の人々をさいなんでいる白人たちに向けたり。そうやって彼女は公民権運動に激しくのめりこんで、マルコムXやキング牧師とも親しくしてたんですね。

激しくて純粋で、徹底的に自分らしく生きようとした人。うそのない一生でした。