歌舞伎をよく見てた時期があったんだけど、外資系勤めが長かった私には信じられない男尊女卑や厳格な身分制度が当然で、耐えられず逃げ出したり死んだり殺し合ったりする男女が美しく描かれるという世界観が、むかむかする一方で、胸が痛くなるほどの感動をおぼえたものでした。かように理屈と感情は別問題なのだ。
この映画は梶芽衣子が気丈で凛として美しく、宇崎竜童が青く真っ正直で、二人とも素敵です。梶芽衣子の研ぎ澄された美貌で鋭くにらみつけられると、はっとしてしまう。(最近の監督は柴咲コウに同じような目つきをさせようとするけど、役柄自体が甘ったるいし、やっぱり雰囲気違うなー)宇崎竜童は、当時はリーゼントとサングラスに革ジャンの不良のイメージだったけど、この映画では純粋な若さが感じられて良いですね。(演技はまだちょっと固いけど)
全体的には、どろどろして大人のいやらしさ渦巻く映画かと恐れていましたが、悪役の九兵衛を演じた橋本功が、悪いんだけど暗くなくて、やがて悪事が露呈してボコボコにされるあたり、なんかしょうもなくて「極悪人」のアクがありません。
ラストシーンが(これネタバレ?違いますよねタイトル落ちだし)心中後に日が昇ってきて、明るい中で寄り添う二人のなきがらなのですが、1980年代の現代ものドラマのほのぼのとしたシーンにでも使われそうな呑気な音楽が流れていて、これも、ちっとも暗くありません。ついさっきまで「理不尽すぎる!」と怒っていた私も、「ああなんか二人で天国に行けてよかったね」と思いそうになっています。
「フランダースの犬」だって、幼い子どもが理不尽に苦しめられる話だけど、何があっても汚れない心の美しさに神性を感じて感動するわけですよね。
うーむ。心中ものにはNo!というポリシーだったはずなのに、なんだか慣れてきている…。