映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

トレイ・エドワード・シュルツ監督「WAVES ウェイブス」2772本目

あー、辛いお話だった。

優れたアスリートだった兄は無理をしすぎて肩がやられてしまい、スポーツができない体になっていた。愛する彼女が妊娠してしまったが、とても育てられるとは思えず中絶を迫ってふられてしまう。アスリートの父は強権的、母は実母ではなく、追い詰められた兄は自分の妹にすがる。

兄が思い余って彼女を殴打してしまうと、床に頭を打ち付けて意識不明に。そこで視点が兄から妹に移動します。彼女は亡くなり、兄は終身刑に。同じ学校に通い続ける娘は、居場所がなくいつも一人でうつむいています。そこに、彼女に声をかけてくる男の子が。(ここで、兄・妹が黒人で、その男の子が白人だという事実が視覚的に気になりますが、この点は実は最後まで一切誰も触れないし、肌の色を理由とした問題は最後まで起こりません。)男の子の父はジャンキーでもう何年も会っていません。。。その父が余命わずかという連絡が入り、アスリートの妹は彼を促して父を看取りに出かけます…

みんな何かを失ったり失いかけたりしていて、家族のつながりを心底求めています。みんな何かを憎まずにいられないんだけど、それは愛の裏返し。終身刑の兄の心情はその後ほとんど語られないのですが、エンディングに声だけ流れるのが、兄と彼女が一番ラブラブだったときの「愛してる」「私も」「すごく愛してる」という言葉なのが切ないです。

父は自分が息子を追い詰めたと思い、妹は自分が止められなかったと思っている。 砕けてしまったかけらを拾い集めるように、改めて家族を作っていくんだろうな。救いはないけど、前を向いた映画でした。

WAVES/ウェイブス(字幕版)

WAVES/ウェイブス(字幕版)

  • 発売日: 2020/09/25
  • メディア: Prime Video