映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

アルフレッド・ヒッチコック監督「バルカン超特急」2774本目

<ネタバレあり>

2012年に見たけどTVでやってたのでまた見ました。すごく面白かった記憶がある。

(それに、The Lady Vanishesという原題を元にして村上春樹「象の消滅」の英語版タイトルが「The Elephant Vanishes」になったという話を翻訳者から聞いたのも印象に残ってる)

これ今Amazonプライムの見放題で見られるんですね。ダウンロードもできる!字幕をつけただけの著作権切れ作品なので、そんなふうに名作がすぐに見られるようになるのってVODの強みですね。

さて。最初の方まったく覚えてませんでした。すぐに列車に乗るのかと思ってた。ここは宿ではなくて駅の待合室でしょうかね。結末を知っているから、最初に無言でカウンターでチケットを受け取った(名前を明かさないという伏線?)老婦人が気になるんだけど、そのあとしばらく登場しません。彼らの列車が「バルカン超特急」だということは、ヨーロッパの地理に詳しくないこともあって、わかりにくいです。豪雪で列車が停まるのなんて、スイスかなーとか思いますが。

さきほどの老婦人も列車に乗れるはずもなくホテルへ来ています。現地に6年住んだとのことで、現地語が流暢です。彼女が部屋の窓を開けると美声の流しの歌が聞こえてきますが、続いて上の階でポルカみたいな音楽を演奏している音がにぎやかに聞こえてきます。

イギリスのビジネスマン2人が押し込められた女中部屋の持ち主の女性の明るさも謎だし、ポルカを奏でる男も謎。やたら賑やかな若い女性3人組も目立ちます。

…中の一人(もうすぐ結婚する子)が、老婦人を狙ったレンガが頭に当たってフラフラ、支えられて社内へ。同じコンパートメントの家族と談笑、食堂車へ行って老婦人がガラスに名前を書く。「FROY」…席に戻ったら眠くなってしまい、目が覚めたら老婦人がいない。「本当にいたのよ!」

クラリネットのお騒がせ男が、ここから彼女の味方となりますが、誰に聞いても「そんな人乗ってません」。…昨夜と同じ食堂車の席につくとき、観客には最初からガラスに書かれた「FROY」が見えているのに二人は気づかずに話し続けます。気づけ、気づけ…と念じていたら、やっと気づく。…こういうシーケンスが見事なんですよ、ヒッチコックは。操られちゃうんですよ観客が。ハーブティのパッケージだけが窓に一瞬くっついて、すぐに風ではがれる映像とか、何度も撮りなおしたかなー。ワインに薬を盛られたときのカメラワークも、無駄なくらいスリリング。結局飲んじゃうのに(そして動き回ってたら効かない、という)。

老婦人が発見されてからは、エンディングに向かって、アクション映画のような趣きになっていきます。ただのビジネスマンの乗客が皆、いざというときに銃を扱えるのは、第一次大戦あたりを戦ってきたという設定なのかもしれないですね。それにしても、老婦人ひとり(スパイであることはほとんどの人が知らないのに)のために、ずいぶん死傷者多数だよな…。結局フロイばあさん、先に外務省に着いてたのに。

 全体的によくできてますね。冒頭の、雪に閉じ込められた駅の情景も、カメラワークも。でも8年空けて2回目に見ても、最初ほどの感動はなかったかも。何も知らずに、期待せずに見るべき作品ですね!

バルカン超特急(字幕版)

バルカン超特急(字幕版)

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