7年前にも見たけど、また見たくなってレンタル。これと「間諜X27」で私はディートリッヒ様に惚れました。ドイツで作られたドイツ語の映画はこれだけ。このあとさんざんスタンバーグ監督は彼女の映画を撮るわけですが、この映画に引っ張られたのか、それとも元々舞台上(彼女の舞台を見てスカウトしたらしい)の彼女がこういう悪女キャラだったからか、このような役柄のものばかりで、まとめて見たら食傷してしまったくらいでした。
この映画ではローラ・ローラは手描きポスターの中に登場するのが最初で、次はスカートがめくれる”ひわいな”ブロマイド。次の出番はリハーサル中の舞台で、スタートしての雄姿が見られるのは始まってから18分くらい。引っ張って引っ張ってやっと見られたローラ・ローラは、華やかで明るい太陽のようなスターです。衣装はセクシーだけど、煽情的な動作はなくて、彼女はセックスシンボルじゃなくてアイドルだったんだなと思います。
この頃は29歳くらいだけど、骨太で四角い顔のがっちりした若い娘といったふう。後ろ姿なんかはちょっと太めな感じもします。その後ダイエットしちゃったのか、ガリガリというほど細くなりますが、この頃のしっかりした感じが私は一番好き。
ラート教授の鬼気迫る演技、すごいですね。他の出演作品を見たことはないけど「ファウスト」とか「カラマーゾフ」とか、きっと迫力あっただろうな。(その後ナチスのプロパガンダに参加して映画界を追われたらしい)(ちなみに「嘆きの天使」撮影時、わずか46歳)
改めて見直してみると、教授が「ブルー・エンジェル」に向かう夜道はまるで「カリガリ博士」だし、ローラ・ローラが舞台で歌う歌は、むかーし買った中村とうよう監修の「大衆音楽の真実」っていうCDブックに収録されてた1920年代のベルリン歌謡と同じジャンルだ。”第一次大戦に敗れたあとのワイマール共和制下で(イギリスのミュージック・ホール歌手がアクの強い庶民的な演劇性をもったのと同様の)下層都市大衆の音楽が盛り上がった”というのと一致していて、なんだかゾクゾクしてきます。中村とうようはその文章で「映画を通じてディートリッヒらが紹介された」ことにも触れてるけど、彼女の最初の映画は、まずその時代の庶民文化をそのまま映したものだったわけで。
本で紹介されていたクレール・ヴォルドフという当時の風刺歌手は、ググってみたら、男装で煙草を吸いながら戦争批判の歌を歌ったり、1924年以降なんと映画デビュー前のディートリッヒ様とステージに立っていたとのこと。(英語のWikipediaより)あのスタイルや反戦の考え方は、先輩から受け継がれたものだったのかな。
ほぼ全員がキャバレーに通う中でひとり頑なに拒んでみんなにイジメられてる少年が、なんだかその後のアドルフ氏に重なって見えてくる。この映画では「マジメすぎること」がアケスケな庶民文化に飲み込まれていくけど、ドイツはその後”堕落”する前の教授のような人たちによって粛清されていく。
いろんなものがつながってくるから、映画は、文化人類学だから面白い。
やっぱり、この映画が一番好きだな。この映画を見たあとベルリンに旅行して、映画博物館に行ったら「ローラの部屋」があって「嘆きの天使」がずっと流れてて、私はまるでラート教授みたいに、いつまでもうっとりとそこに立ち尽くしていたのでした…。いつかまたあの場所に行きたいな。