映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ノア・バームバック 監督「マリッジ・ストーリー」2794本目

Netflixオリジナルだけど、これはKINENOTEに載ってるのね。日本でも受賞できるようにかしら…。

スカーレット・ヨハンソンとアダム・ドライバーの夫婦。お互いの長所を順番に上げていく冒頭で、二人の人となりが語られるけど、それは実は離婚の準備のために弁護士に言われてやっていたことだった。二人でNYで劇団をやっていたけど、妻はハリウッドに戻りたくなっている。彼女が紹介された弁護士がまた、ローラ・ダーンなんだな~。なんだかこの辺から歯車が狂ってきそうな予感(笑)。

これほどきちんと順序だてて離婚について描いた映画って、今までなかったのでは?つまり、離婚したくなるに至った事件に集中して描くので、離婚に至る頃には観客にもフラストレーションが共有されていて、その後の離婚プロセスは手続きに過ぎない、となっていました。この映画は最初から離婚プロセスだけをたどるので、初めて彼らを知った第三者である弁護士みたいにニュートラルに二人を見られるのです。

ローラ・ダーン弁護士に出会って始めて妻の長年のフラストレーションが噴出します。温厚だと語られていた夫だけど、劇団長ということは自我が強く自己主張を通す性格なわけで、あんなに強そうなブラック・ウィドウ、じゃない、スカーレット・ヨハンソン演じる妻でも彼に従属していたということがわかってきます。「おまけに彼は浮気した」

離婚の間に他人を入れると、苦しみを過小評価されるか、相手への憎しみを増大させるかのどっちかだなぁ。結局のところ自分たちの問題なのに。

好きになるような人を憎むだけになることってあるのかな。嫌いな部分も最初からあるのに。

別れたあとに、冒頭で使った「彼の好きなところ」のメモが出てきて、息子がなぜかそれを音読の練習に使っている。彼女が映画の脚本を書くようになって、二人のことを映画化しようとしたのかなと思ったけど、ただのメモだった。

結婚の対義語が離婚ではなくて、結婚してから離婚するまでの全部が結婚。(同じように生と死は対義語ではなくて、生が始まって死が訪れるまでが生なのだ)この映画の邦題は、昭和30年代なら「結婚物語」になっただろうしそれが正しいと思います。

甘ったるくすることも、どちらかの感情に加担することも、社会派っぽく突き放すこともなく、そういうもんだよね、という描き方をしたことがとても新しいし、良かったと思います。「それでもあなたと結婚してよかった」って邦画なら最後に(余計な)一言追加しそうだな。(要はそういうことだと思うけど)

 

 

 

離婚…ということを私も若い頃にしたことがあるけど、誰も間に立てずに二人で話して私が決めた。