映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

スチュアート・センダー監督「リマスター マイアミ・ショウバンド」2822本目(KINENOTE未掲載)

知らなかった、こんなバンドがあったなんて。アイルランドの北と南の両方のメンバーで構成された平和のバンドだったのに。かなりショックです。小さなダブリンの町に住む、こんなに明るい人気ポップ・バンドのメンバーを虐殺するなんて。それは、どんなテロリストでもやらない。やってはいけないことだ。

1975年なんて、私はもうイングランドのクイーンやスコットランドベイ・シティ・ローラーズを聴き始めてた頃だ。ボーカルはいわゆる”甘いルックス”で、アイドル的にかなり人気があっただろう。しかもアイルランド一のソウル・ボーカリストだったとメンバーは語ってる。日本にもファンがいたんだろうか。ググっても、このドキュメンタリーのことしか引っかかってこない。どんなふうに歌ったのか、どんなふうに愛されたのか…

テロリストもまた、まだ20代の「UDR(アルスター義勇軍)」メンバー。私はイングランドの会社に勤めて1992年にロンドンにいて、まだその頃地下鉄の爆撃予告がときどきあったので「Evacuation!」ってアナウンスで電車を降りるたびに、「IRA(アイルランド共和軍)」はちょっと怖い人たちだと思ってました。でも映画を見るようになってケン・ローチの「麦の穂をゆらす風」にショックを受けて、アイルランド内の争いについて少しだけ知識と関心を持つようになりました。

この映画は日本向けに調整されてないので、ダブリンで何度も爆破事件があって建物が破壊され、多数の人が亡くなった場面も紹介されます。こういうのって、本物を見ないとその衝撃は伝わらないよな。日本のテレビは「わかりやすさ」「親しみやすさ」を重要視しすぎてる…。事実が衝撃を与えるなら、それはそのままにして衝撃を受けなければいけないのだ。(特に衝撃に弱い人がことさらそういう映像を見ないための仕組みを考えたほうがいい、ということ)

「あいつら嫌いだから殺せ」を「あいつら嫌い」だけにとどめて殺意を何か違うことに昇華できないもんか。

Netflixのリコメンドは若干強引な感じもするけど、この作品は勧めてもらってよかったです。NetflixやAmazonの作る作品は全部がすばらしいとは言わないけど、放送っていうすでに政治的な媒体に載せる際の心配とか「忖度」をしなくていいメディアがあるのって大事。

生き残るっていう運命の苛酷さも、沁みます。

1992年にロンドンに滞在した外国人の小娘(私)が、いかに何も知らずのほほんとしてたか…恥ずかしく感じます。アイルランドの内紛で亡くなったすべての方々に、心から合掌。