映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

木下恵介監督「楢山節考」2833本目

なかなか見る機会がなかった作品。カラー映画のはしりくらいの時期かな、冒頭の山の風景のカキワリ背景が、Eテレの幼児番組の人形劇みたいにのっぺりとしていて、ほぼ絶え間なく浄瑠璃が流れる。つまりこれは「日本昔ばなし」なんだ。

老婆役を演じる田中絹代は、このときまだ48か49歳だけど、70になろうとする役どころ。もともと小柄で細い人なので、年をとって小さくなった人の姿をうまく演じています。

「山奥の人なのに上品」って感想を書いてる人がけっこういるけど、私の亡くなった山奥の叔母はこんな人だった。いつも三歩下がって、自分以外の人たちに頭を下げて手を合わせるような。どうやったらこんなに謙虚で立派な人になれるんだろう、と思ったほど。どこで生まれてどう育とうと、その人の生まれ持った品性と長年の心がけなんじゃないかな。

姥捨っていう慣習は記録としては何も残ってないらしいけど、要は殺人(または自殺ほう助か)なのでわざわざ証拠を残す人がいなかっただけかもしれない。逆に生まれたばかりの子に対する「間引き」あるいは「堕胎」は禁止する法律の存在が実態を表してる。姥捨があったとしたら、その中には利他の心で自分から選んで行った即身仏のような人もいたかもしれない、と、田中絹代の演技を見てると思ってしまう。あまりに小さくて子どものようなので、むしろお地蔵さんみたいだ。

自分がこの時代に生まれて70歳を迎えそうだったらどうしよう、などと思いながら見てしまうけど、こんな雪の山なら、苦しむ間もなく一晩で凍死だな。冬生まれでなければ時期を冬にずらしてもらえたんだろうか。

この映画、高度成長期に見たらそうとう冷水を浴びせかけられた感じでショックだったろうな。今なら、年齢に関係なく、自分など社会のお荷物にしかならないから、迷惑にならないために死のう…と思いあまってしまう人たちとも重ねて見てしまいそうだ。それもまた自己犠牲の精神なのかな…。

楢山節考

楢山節考

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video