映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ダニス・タノヴィッチ 監督「美しき運命の傷痕」2850本目

<ネタバレ、なくはない>

美しい一貫した”世界観”に惹かれて、わけがわからないまま見入ってしまいました。

最後まで見ればストーリーはちゃんとわかります。でも、「再生する姿を描いた」という解説には宣伝向けのウソがあって、本当はこの映画は「地獄」を描いてる。(クシシュトフ・キェシロフスキ監督がダンテの『神曲』に着想を得て構想した三部作「天国」「地獄」「煉獄」のうちの「地獄」編に当たる、とのこと)誰の愛も成就しない、愛と因縁の映画。

(この「地獄」っていうのが、Twitterとかで”詰んだ”という意味でいう”じごく”

もう何一つ、過去も現在も未来も希望がなくて、ただひたすらそれでも生きている母と三姉妹。「トリコロール」シリーズには、なんとなくそれでも愛というか、生に対する肯定感が感じられたけど、この映画にはない。ただ、それでも「そんなもんだよ」というような、突き放すような強さがある。やっぱり地獄かもしれないけど、それでも母と三姉妹にしぶとく明日は来る。

三姉妹すごくいい女たちなんですよ。なんかみんなグラマーで、私が男だったらドキッとするような。セリーヌ(カリン・ヴィアール)の真面目そうな表情、青い瞳。ソフィ(エマニュアル・ベアール)の金髪とアヒル口っぽいチャーミングな口元。アンヌ(マリー・ジラン)の一途な表情、ミニスカートの細い脚。ソフィの夫(ジャック・ガンプラン、理想郷を作ったシュヴァルだ!)がジュリー(マリアム・ダボ)と浮気してるわけですが、妻と愛人がそっくりすぎて…。男は結局同じ女を追い求めるものなのでしょうか。

トム・ティクヴァが映画化した「天国編」(ヘヴン)も見なくちゃ。 誰か「煉獄編」も作らないかな…。結局まったく無実だった父親の名誉挽回編とか…。(彼がカッコウのひなを助けてやって、本来育てられるはずだった卵たちを死に追いやる冒頭の場面が気になるのでした)

美しき運命の傷痕

美しき運命の傷痕

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