映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ドメ・カルコスキ 監督「トム・オブ・フィンランド」2855本目

2016年末にフィンランドに行ったとき、スーパーでムキムキな男性の絵がついた「トム・オブ・フィンランド」のコーヒー豆を売ってて、何だろうと思いつつお土産に買って、帰ってからググったら、実在したゲイ・アートのイラストレーターでした。映画はその直後に本国公開されたんですね。映画のことは、2019年に日本で公開されることになって初めて知りました。

彼のマッチョなゲイのイラストがアメリカでメジャーになっていった頃って、クイーンのフレディ・マーキュリーが繊細で中性的なスタイルからマッチョへ変わっていった時期にもつながるのかな。

映画自体は、題材が題材だけにエンタメ性を期待して見始めると、暗めで静かで…「リンドグレーン」とかもそうだったけど、北欧ってところはどうも盛り上げるのが苦手だな。筋も追いにくいのは、フィンランド内ではだいたい誰でも彼の生涯をもう知ってるからかな。ハリウッドで映画化したら、レザーを着込んだマッチョな映画になっただろうから、トウコの地味な日常を感じさせるフィンランドでの映画化で良かった気がする、この映画に関しては。

主人公のトムことトウコを演じた役者さんは、映画の公式サイトに載っている本人の写真に似てるけど、本人はファッションデザイナーかな?と思わせる美的センスと自信をうかがわせる一方、役者さんは線が細い。”いかにも”なゲイばかりじゃない、と共感する上では成功してるかもしれないけど。彼自身はボディビルをやってマッチョになろうとは思わなかったのかな(三島由紀夫みたいに)。

「ミルク」を見た時も、日本から見れば開けた国なのに抑圧がなんて強いのかと驚きました。この映画も、北欧ってなんとなく性にオープンなのかなと思ってた(偏見です、すみません)ので、意外。

フィンランド人がみんな、トムをアメリカ人だと思ってたのも意外。確かにキャラクターは、私たちがみんなアメリカンだと思うような雰囲気があるけど。フィンランドって言ってるのに(笑)

レイザーラモンHGは奥さんがいる(怪しげな化粧品を売りさばいてる)のであれは売用のキャラクターだけど、あと何年かしたら、ゲイじゃないのにゲイを売り物にするのは間違ってるって糾弾されるようになるのかなー。渋谷区は同性パートナーシップを高らかにうたって実にすがすがしいんだけど、その一方で、むかし男友達の家のトイレに並んだ「バディ」を見たときの地下室のいやらしさみたいな強烈な魔力は、もう太陽の下でなくなっていくのかと思うと、ちょっとなんともいえない気もします。

トム・オブ・フィンランド [DVD]

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  • 発売日: 2021/01/06
  • メディア: DVD