映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

コスタ=ガヴラス 監督「ミッシング」2880本目

チリで軍事クーデターが起きたときに現地にいて、その後姿を消したアメリカ人青年。これは彼と、彼を探し続けた妻と実父の実話を映画化した作品。失踪した青年(を演じたジョン・シェア)の風貌や質問好きなところが、前にNetflixで見た「カメラが捉えたキューバ」を製作したドキュメンタリー製作者ジョン・アルパートを思い出した。彼の妻も非常に勇敢な女性だ。好奇心のかたまりで、どうやったらこんなに次々と質問が生み出せるのか不思議なくらい。好奇心を持ちすぎることを「火遊びしすぎると火傷する」として諫める場面がこの映画には何度も出てくる。アメリカにはその好奇心で鋭いドキュメンタリーを撮り続けて、ちゃんと生き延びた人もいる。そもそも、この映画を作れる自由の素地がまだ生きてる。それが希望なんだけど、アメリカ政府には外国で軍事クーデターを起こさせて、その国の新政権を覆せるほどの力がある。自国の利益のためにそこまでやってしまう”世界独裁”みたいな権力が怖い。

不思議ちゃん風だけど勇気あるまっすぐな妻を演じたのはシシー・スペイセク。キャリー…って思ってしまうけど、いい役者だなぁ。失踪した息子の父を演じたジャック・レモンも、性格の違う息子に対する複雑な心情と深い愛情が真摯に伝わってきて素晴らしかったです。

この映画がカンヌで最高賞を取る世界はまだ健全だと思う。日本は大丈夫なんだろうか…。