映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

村橋直樹 監督「エキストロ」2881本目

新作をあまり映画館で見ないおかげで、予告編を見る機会もなく、この作品はドキュメンタリーだと思いながら見始めることができました。途中で、ドキュメンタリーではありえないカメラ位置の安定、なめらかな動き(絶対あらかじめドリー設置してある)に気づく。町人役をやるはずだったエキストラがワガママを通すとかありえないし、「この時代の町人は髭を生やすことは許されていなかった」のに撮影現場で農民が侍を押しのけて一番前に出てるのを普通に映してるのがおかしい。これはエキストラの世界を描いたまじめなフィクションなのかな。その後、その「農民」が10回以上も歌を歌う場面をやらされるあたりから、ああこれは笑わせにきてるんだなと気づく。

麻薬密売犯は、エキストラやるわけないだろ(笑)、顔を隠して生きてるんだから…。このあたりからもう、「ガキの使い」みたいな荒唐無稽っぽい「ヤラセ」の世界なんだなと、最初とは違う「お笑い番組を見てる気分」になっています。潜入捜査をするはずだった警官たちが仕事を放り出して演技に熱中してお芝居の教室に通うところまで撮影…とかもう、よしもと以外の何物でもないセンス。そんなに面白くはないけど、見慣れたノリと流れで、安心して(予定調和が想像できるので)おやつでも食べながら見ると…。

それでも、映画好きとしては撮影現場の裏側を見るのが面白い。監督はテレビの「透明なゆりかご」を監督した人だそうで、あのドラマはすごくよかった(特に主役の清原果耶)んだけどまた全然違うものを作ったなぁ。

主役の荻野谷幸三さん、すごくいいたたずまいですよね。朴訥で愛嬌があるけど芯が強くて目力が強くて。映画の製作者が彼に目を付けるのは、なるほど当然。彼は映画と同じように、生活しながらずっと演劇活動を続けてきた、いわばセミプロ。そういう人がやるエキストラは確かにマエストロなんだと思います。

去年、会社を辞めたときにエキストラ会社に登録してみたことがあったのですが、地元のフィルムコミッションの募集やテレビ局の直接募集は無償のことが多くて、都内のエキストラ事務所はだいたい有償でした。(拘束時間で割ると「東京都最低時給」を下回りそうな金額だったりする)でも、ただ通り過ぎるだけでも演技は演技なので、大林監督がいう「エキストラはマエストロ」というのは事実。エキストラといっても、モブだけじゃなくて役割を与えられえた人も多いし、一くくりにはできないんだろうなと思います。

ところで「ワープステーション江戸」がNHKエンタープライズの管理だと知ってびっくり。今、連続物の時代劇をずっと作り続けてるのって、NHKくらいだもんな…。

エキストロ

エキストロ

  • 発売日: 2020/12/02
  • メディア: Prime Video