映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ルイス・ブニュエル監督「ロビンソン漂流記」2884本目

いつものように、なんで借りたか忘れたまま見始めて、だいぶたったところでKINENOTEをチェックしたら、これルイス・ブニュエルが監督でした。言われてみれば、線の太いイラストみたいな濃い感じの映像がブニュエルっぽい気もしてきますが、全体的には教科書的にロビンソン・クルーソーの物語をなぞっていて、よくできた絵本みたいです。これ名作「エル」と同じ1952年に制作されたんですね。ブニュエルのメキシコ時代の作品、だけど言語は原作に合わせたのか、英語です。でもなぜこの映画を作ったんだろう?

…という疑問のヒントは、ちょくちょくロビンソンがひもとく聖書にあるのかな。

近隣の島からやってきて、人を殺して食べる人々に対しては、野蛮であるとして罰することを考えるけど、自分に危害を加えるわけじゃないので手を出すのをやめる。…こういう判断のもとになる倫理観って、まるで欧米の常識人と違いません。

命を助けた男をフライデーと名付けて奴隷にして、自分をマスターと呼ばせるって、すごい感覚だなぁ。無人島で遭難していても自分のほうが上だと思えるんだ。死んでしまったペットの犬のあとがま、みたいな扱い。実際は、原作者のダニエル・デフォーは航海とかしたことなかっただろうな。イギリスで大きなカツラかぶって空想小説を書き続けたから、英国人と奴隷が無人島では平等あるいは自分たちのほうが弱いってことに思い及ばなかったんだろうな。今見ると、フライデーの扱いがずいぶんひどいなぁと感じます。

やがてフライデーを友人と認めて鎖を外したロビンソンに、フライデーは「神がそんなに偉いならなぜ悪魔を殺さない?」など無邪気に神を問います。

その後この島に流れ着いた白人の一団に、仲間割れを持ちかけて自分は船長の側についてまんまと帰国の途に就くのですが、その際に”裏切者(持ちかけたのはロビンソン自身なのに)”にまたひとくさり説教をぶつのが、すごい。無人島の倫理は、自己肯定力がもっとも強いものが勝つ、でもういいんじゃないかな…。

フライデーを演じたメキシコの俳優は、映画一家の末っ子で、その後自分でも監督したらしいけど、KINENOTEではこれしか出てこないな。どんな作品を作ったのか、ちょっと 見てみたかったです。

ロビンソン漂流記 [DVD]

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  • 発売日: 2017/12/25
  • メディア: DVD