映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ルキノ・ヴィスコンティ監督「家族の肖像」2932本目

興味深い新作が次々と公開されるのをしり目に(お金ないし)今誰も見ないような微妙な作品を見続ける日々‥‥

この作品は冒頭クレジットにフェンディとかイヴ・サンローランとかの名前が次々に出て、もうそこからして貴族的(笑)。ヘルムート・バーガーの斜に構えた写真を使ったサムネイルを見てるだけで、爛熟してくずれおちそうな貴族社会を期待してしまいます。

主役がバート・ランカスターで言語は英語。自宅にいるときもスーツを着込んでネクタイまで締めている教授。彼の邸宅に、美しい人たちが押しかけてきます…図々しく住み着く夫人の娘を演じたクラウディア・マルサーニの若々しさはまぶしいし(この人ほかの映画には出なかったんだな)、ヘルムート・バーガーの美しさとナルシストぶりって、ビジュアル系バンドのボーカリストみたいだ。

クラウディア・カルディナーレもドミニク・サンダも出てる。教授の美術品のように、監督は「美」に囲まれていたかったのかなー。

教授の母(ドミニク・サンダ)や妻(クラウディア・カルディナーレ)の回想の場面は、わりと唐突に出現するんだけど、この感じ、”巨匠の晩年の作品”だなぁ。

若くて美しい3人が抱き合う場面、リエッタに「あなたと結婚したっていい」と言われて謙遜する場面。若い人たちはオープンな気持ち(のつもり)で彼を仲間のように扱いたがるけど、老人の目に彼らは宇宙人のように理解しがたい。だけどあまりに長く孤独に耐えてきた教授は、振り回してほしかったんだな。野生動物を飼うことに慣れていくみたいに。でもなにも成就せず、彼はすべてを悲劇的に失って前よりも孤独に沈む。という、ある自己憐憫の物語でもあります。

この貴族という人たちの甘美な(あるいは甘ったるい)世界って…。「自転車泥棒」の世界の人たちからみれば、ただただ唾棄すべき過去への妄執で、密告でも暗殺でもしてしまえと思うものなんだろうな。でもそのずぶずぶの耽美の世界が、なんとも美しくて切ない。前時代をそうやって生きてきた彼らはもうそこから、この屋敷から、出ていくことができない。教授自身が”中世の遺物博物館”としてのこの邸宅の一部なんだな。こんな映画を作れる貴族のリアリティを持った映画監督って、ヴィスコンティ監督が(最初かもしれないけど)最後の人だったんだろうなぁ。

家族の肖像

家族の肖像

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