映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ルキノ・ヴィスコンティ監督「イノセント」2933本目

この作品は、なんでいつも正装してるんだろうというくらい、豪華なドレスだらけで男性はほぼ常時白の蝶ネクタイ。冒頭からおなかいっぱいになるくらいお金かかってます。

でも、ここで描かれているのは極めて普遍的なテーマなんですよね。タキシードを着ていようがいまいが、ドレスを着ていようがいまいが、男は浮気するし女も浮気する。浮気相手の子を宿すこともあれば、その子をどうするかでもめることもある。「家族の肖像」も老年期の孤独といえば普遍性があるけど、年齢を重ねている分、主役の教授は貴族社会への埋没度が高くて、彼の憂鬱はやっぱり貴族という出自と育ちによる部分が大きく感じられました。一方この作品は、日本の一流企業に勤める育ちのいい若者夫婦にあてはめても違和感がなさそう。

「イノセント」ってどういう意味で言ってるんでしょうね。無罪という意味なら、子どもを堕胎せずに産んで育てようとしたところまでは、夫も妻もイノセントだったけど(姦淫という罪はあるとして)、その後の夫は「ギルティ」だ、もしも裁判にかけられて無罪になったとしても。「本当は可愛くてたまらなかったけど、死産ならよかったと嘘を言った」という妻も、「あなたはどうせ行きながえるのよ」とプライドを煽っておいていう愛人も、法的には無罪だけど道義的には?…という、カギカッコつきの「無罪」っていう意味の「イノセント」なら、なんとなくわかるかも。