映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ロビン・ハーディ監督「ウィッカーマン」2946本目

<ネタバレあります、2006年版まで。これから見る人は読まないほうがいいかも>

「ミッドサマー」、ニコラス・ケイジが主演の2006年版と見てきたので、当然これも見なければですよね。2006年版は作りがアメリカ的で、ストーリーの説得力を補強していますが、こっちはスコットランドの牧歌的な雰囲気がまた違った趣きです。

2006年版では主役が流されやすいニコラス・ケイジ、彼は警官である以前に島の女性の元カレ。生贄になりそう(と彼が思っている)のは”実は彼の娘”という前提を作って彼の保護本能をあおる。ワシントン州の小さな島の人たちは一見オープンだけど、アメリカにも狂信的な教義を信じ切ってる人たちっているから、その一種にも見える。

1973年オリジナルでは警官は非常に厳格な雰囲気の典型的な英国紳士ふうで、島とは何のゆかりもないけど職業倫理だけで島に調査に訪れる。当人は布教者のようなキリスト教信者で、最後まで踏み絵を拒んだ「沈黙」の神父の様相を呈する。 1973年版の”異教”は男根信仰で、そこだけ見ると日本の山奥の神社にもありそうに思えてくるな…。

どちらの作品も、本土から来た男は「入ってくるな」と最初は拒絶され、立ち去ることを求められるんだけど、1973年版は警官の職業倫理をくすぐる罠、2006年版は元カノへの強い未練で放っておけない気持ちを利用した罠(結局どっちも罠)。

今回はストーリーをかなりよく知った上で見たけど、初見だったらこっちの方が「警官がまさか生贄」というのが予測できなくて恐怖だったかもしれません。真面目で堅物な雰囲気のエドワード・ウッドワードの渾身の演技、神父みたいなよく通る声が悲壮感を強めます。

この映画はアイデア勝負の一発目で映画愛好者を驚愕させてくれたけど、その後だんだんイマジネーションがふくらんでいって、いま現在「ミッドサマー」まで来た、という進化の軌跡をたどるのも興味深い。

島民たちの祭りがあまりに明るくて牧歌的なのでイメージしづらいけど、横溝正史や江戸川乱歩が日本の山奥の村を描いたような作品のほうが先なんじゃないか、という気もしました。

「バーニングマン」に本当に生物を入れるのはやめて木枠だけ燃やしましょうよ、世界じゅうの異教徒のみなさん…。

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