<ネタバレあり>
去年10月の公開、およそ半年を経てVODで見ました。原作は辻村深月。
子どもを持つことを望んでいる夫婦のどちらかの生殖器官が子どもを作れないことがわかったときに、作れないほうが「離婚も考えてくれ」って言ったり、「いいよ」って言われて泣く。それって、子どもがホモセクシュアルだったら、孫の顔を見せられないって言って親に泣いて謝るべきっていう価値観なのかな。結婚ってみんな、子どもを作るために、あるいは子どもを作る前提でするの?どんな人間にも、100%働いていない器官が一つくらいはあるかもしれないのに、なんて楽観的なんだ。
養子をもらうことは、身体をいためて産む子どもの代わりを見つけることじゃない。実子だって予想できない性格や能力を持っているかもしれないし、特別養子縁組をして戸籍に入れて育てるとしても、子どもは誰にとっても授かりもので、誰かのものになるわけじゃない。一緒にいられる時間は神様からの授かりものだから、感謝して一緒に過ごさせてもらう、ということしかないと思う。
…この映画を最後まで見る上で、その辺を乗り越えるのがハードルになる人は少ないのかな。
ひかりは友達の借金の肩代わりをするし、傷んだ茶髪と荒れた肌で息子の養父母を訪ねて追い返されてしまうけど、借金のカタに”風呂に沈められる”ことはないし、最後には養母の心からの謝罪を受ける。
ひかりは、”風呂に沈められ”る女の子たちや、ダニエル・ブレイクが助けようとしたシングル・マザーのケイティほどは落ちていかなかった。その辺が、強くて賢い女、河瀨直美が作った映画だなぁと思う。(私もそっちの仲間だと思う、多分。)ひかりに借金を負わせて消えた女友達は、河瀨監督の主人公にはならない。
この映画のポイントが、世間の無理解のなかでも闇に飲まれずに生き延びるっていうところにあるなら、少しほっとするかな。可哀想に見える人が可哀想なんじゃない、悪そうに見える人が悪いんじゃない。共感したり安心したりする部分もあるのに、怒りたいような変な気分なのは、自分はまだ達観できてないからかな…。
養子についての映画はたくさん作られてきてるけど、「そして、父になる」も「秘密と嘘」もこの作品も切り口が違っていて、見るたびに心の違うところに触れるので、もうしばらくいろんな人が作っていくといいと思います。