映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ジェームズ・アイヴォリー監督「眺めのいい部屋」2959本目

流れでこれも再見。

これを見たころはまだ旅行らしい旅行をしたこともなかったので、ホテルの部屋の眺望が悪いと文句を言うなんて、ワガママというより贅沢だなぁと思ったものでした。

可憐なルーシー(ヘレナ・ボナム・カーター)に同行しているシャーロット叔母はマギー・スミス、ディナーのテーブルには作家ジュディ・デンチもいる(若い!)。ジョージ・エマソン(ジュリアン・サンズ)の父親はデンホルム・エリオット。フィレンツェのホテルに集うイギリス人たち、これはツアーなのか、それともイギリス系のホテル?

街中の激しいケンカに遭遇して卒倒するルーシー。良家の娘が卒倒するという場面が、20世紀以降の小説にはもう出てこない(と思う)けど、19世紀に書かれたこの小説では卒倒する彼女が弱弱しく上品な淑女として好意的に(騎士道的に)描かれているのではなくて、自立したい女性の失態とされる(少なくとも本人は思っている)。「インドへの道」でアデラがセクシュアルなエローラ遺跡で動転するのも、その後の失敗につながる。彼女たちは「か弱い貴婦人」から「たくましい現代女性」への移行途上にいて、時代を先取りし損ねてひどく傷つくことになる。(…作品横断的にヒロインの造形について語りたくなったりするあたり、英文学科で卒論を書いたやつって感じでイヤですね!スミマセン)

ダニエル・デイ・ルイスはお堅いお堅い男の役が、またうまい。婚約後にルーシーからキスされて真っ赤になるとか…感情を完全にコントロールできるのか。悲しくて泣く演技はみんなやってるから、赤くなるのも不思議じゃないけど。

マーチャント/アイヴォリーがE.M.フォースターを何本も映画化した一方、トマス・ハーディ(4年ゼミで専攻したので対照のために引き合いに出してみる)を扱わなかったのは、フォースターがゲイだった(マーチャント&アイヴォリーはパートナーだったらしい)けどハーディはストレートだったっぽいこと、フォースターは作品がロマンチックな一方ハーディは絶望的なのも多いこと、とかかなと考えたりする。 「テス」を映画化するのはヨーロッパの負の側面を見てきたポランスキーなんだよなぁ。

それにつけても、英国美術の粋を集めたゴシップ小説のような、よくできた作品でした。

眺めのいい部屋 HDニューマスター版 [DVD]

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  • 発売日: 2015/04/28
  • メディア: DVD