映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

リンゼイ・アンダーソン監督「八月の鯨」3000本目

「ベティ・デイヴィスの瞳」(キム・カーンズ、1981年)で初めてこの女優の名前を知って、1987年に映画館に見に行ったこの映画で初めてその姿を見た。と同時に、リリアン・ギッシュの存在も知ったっけ。

ベティ・デイヴィス、1908年生まれ、このとき79歳。「イヴの総て」と「ジェーンに何が起こったか」で、ハリウッドという華やかさに執着する、衰え行く女性や、才能のある姉妹の確執といった女性の内面を深く演じた作品で知られていました。 

リリアン・ギッシュ1893年生まれ、このとき93歳。私はリリアン・ギッシュの映画のほうが印象が強くて、「国民の創成」や「イントレランス」もだけど「狩人の夜」の賢明な老婦人の役がすごく良かった。1955年、まだ62歳だったのね、といってもそろそろ高齢者って年齢だけど。彼女はアメリカの良心を信じ続け、体現しつづけた女優だった気がします。夫が戦死したのは第「一次」世界大戦。

この作品でも、年齢差を乗り越えてこの二人の特徴をそのまま生かしてますよね。

舞台は現代に近いのに、「大草原の小さな家」そのまま時間だけ経ったみたいで、男たちは明るく闊達な開拓者気質だし、女たちは自立してしっかり暮らしてる。今はそんな強さを彼らに見つけられるけど、最初に見たときは、もと大女優がここまでヨボヨボな姿をさらすのは屈辱的じゃないんだろうかと思うくらいガキでした。最後まで姿をさらして表現することが女優ということなんだ、という覚悟が今は見える。

一人で老後に片脚を突っ込みかけてる私としては、今より弱って老婆になったあとにどんな生活があるのか、参考になるのかならないのか。。。老姉妹+友人と一世紀近くも同じメンツで暮らすことが想像できないし、毎日こんなに隣人に愛想よくできる自信もない。「ノマドランド」に共感してしまうくらいで、一人で海を眺めているような老後しか想像できない…。でも彼女たちが住む海辺の家は、私がいつも憧れる自然のなかの暮らしそのままじゃないか?そこに自分ひとりでなく、誰か親しい人と一緒に住むのはなかなかいい老後なんじゃないか?

この映画には若い人が一人も出てこない(老人も5人しか出てこない)。世界はしずかに終わりかけている。映画の終わりにかけての感じが、なんとなく日本の監督の作品みたいだな。全体を通して存在するのが「情緒」だからかな。

この映画の優しく弱った世界にミヒャエル・ハネケが現れないといいなぁ(悪意の隣人とか)。。。。 

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