映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

沖田修一監督「おらおらでひとりいぐも」3006本目

原作は未読。沖田修一の映画なのでわりと期待して見てみました。

冒頭の先史時代のCGは、どんな制作会社のロゴかと思ったらこの映画のはじまりだった。もう、そこから、この映画はシリアスに見るもんじゃないと言われてるのと同じです。

好き嫌いあるだろうけど、私は”毛糸のチョッキ3人組”クドカン、青木崇高、濱田岳がかなり受けてしまった。田中裕子の若い頃が蒼井優というのも、なんとなく割とすっと入ってくる。この暮らしは孤独なのか?愉快なのか?両方、真実だろうな。年の割にしっかりしてるけど、どうにも危なっかしくもある。オレオレ詐欺なんてあいませんよ、と言えるのはすでに実はひっかかったからだし、彼女の豊かすぎる内面のイマジネーションは、認知のおとろえなんだろうかと不安もあおる。

沖田作品で唯一はまらなかったのが「モリのいる場所」だったんだけど(多分主題に対する思い入れが強すぎた)、それ以外は全部好きだな。

原作は「史上最年長から二番目の芥川賞受賞」で有名だけど、55歳で夫を亡くしたあと65歳で受賞。この主人公は65で夫を亡くして10年たった75歳だ。10年後の自分を見越したのか。夫に先立たれた妻はみんな生き生きして若々しいと聞くけど、昔の女性はひたすら夫に尽くして自由が何もなくて、夫の没後やっと自由を得るからなんだろうか。

田中裕子が黙って3人と過ごしているときのナレーションは蒼井優なんだよな。普遍的な桃子さんはいつも若い姿なんだろうか。

私としては自分の20年後を見越しながら見るべきなんだろうか。

お医者さんが原人になったあたり、とてもファンタジーというかマジック・リアリズム感があって、ああこの原作は多分わたしの好きな村田喜代子の仲間だな、原作読んでも多分好きだっただろうなと思いました。私も、心だけどっか飛んで行ってるようなグレイトでマジカルな老婆をめざして、老後までもうしばらく精進したいです。