映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

大島渚監督「帰って来たヨッパライ」3031本目

これも、いま見る人いないだろうなー

1968年の作品。歌は面白くて覚えてるけど、なんで大島渚が映画化したんだ?はしだのりひこはドラマによく出てたし 「花嫁」は「はしだのりひことクライマックス」がテレビで演奏するのを見た記憶があります。(当時「夜汽車」って言葉が出てくる映画たくさんあったよな)

この映画は、フォーク・クルセダーズがこのタイトル曲のあと「イムジン河」を世に出せずに「悲しくてやりきれない」を発売した頃に公開されてる。森達也「放送禁止歌」の中で「イムジン河」の経緯が詳しく書かれてたんだけど、この映画は「ヨッパライ」のタイトルがついたコメディとなってる割に、冒頭からなんだかきな臭い。北九州あたりの砂浜で、日本軍の軍服なんだろうか、3人が脱ぎ捨てて海に出てる間に、半島から上陸した何者かがハングルの名札を縫い付けたカーキ色の軍服っぽい服にすり替えていた。このあとずっと彼らは、半島から来た怪しい軍人たちとして追われることになる。

加藤和彦が、韓国の映画に出てくる頼りない男の子みたいにすごく可愛い。はしだのりひこはコドモにしか見えない!女風呂から覗いてくる美人は誰だろうと思ったら緑魔子ですって。

「マジカル・ミステリー・ツアー」(1967年)か何かみたいに、シュールでデタラメな場面が脈絡なく続き、終わったと思ったらデジャヴみたいに最初から繰り返される。

面白いな。コメディとかポルノとか、今ならAmazonやNetflixみたいな「王道でないところ」から前衛的な作品が出てくる。その後いろいろあったから、今はもうこんな映画、アングラでも作れないと思う…。この頃のとんがった若者たちって、いろんな理不尽に怒ったり八つ当たりしたり、結局のところ何が言いたいかわからない形で映画化して世に出したり…わりと幸せな時代だったのかな、という気もします。自分たちが幸せだなんてまったく思わなかっただろうけど…。

そんな、当時の前衛の新鮮さをたっぷり味わうことができた作品でした!