映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

クロエ・ジャオ監督「ザ・ライダー」3038本目

ノマドランドの監督の、それより前の作品。

出演者たちは舞台となったサウスダコタの荒れ地の実際の住人から選ばれたとのこと。主役の、静かなたたずまいで横顔が美しいブレイディ・ジャンドローと妹と父は実際に家族だ。ノマドランドもこの作品も、一番美しいのは役者じゃなくて本当の人たちなのかもしれないと思ってしまう。嘘のなさ。誰かが書いた台本を読んでいても、本当のことだと感じさせる、なんか本質的に強いものがある。

彼が乗馬しているようすは、馬が上下しながら進んでいるだけで、彼は静止してるみたいに見える。ロデオの乗り方なんだろうな、これが。

これを見てクロエ・ジャオ監督に「ノマドランド」の監督をオファーしたフランシス・マクドーマンド、いい目の付け所ですね!しかしどうしたら北京育ちの中国人が、こんなに広がりのあるサウス・ダコタを撮れるんだ。(アン・リーが「ブロークバック・マウンテン」を撮ったのと同じようなものかな、遠くから見るからこそ美しさがわかるのかな)

心の動きはとても静かに描かれる(一般人はいつも表情やしぐさで感情を表してるわけではない)けど、これが居心地がいい。疲れない。彼らの町にお邪魔してるようで。

ロデオは多分脊椎を傷めるリスクがすごく高いスポーツで、そうなってしまった友人とのやりとりがぐっと胸にきます。危険だからやめろ、で済むものでもない。閉塞感のなかで青年たちは入れ墨を増やしていく。父は酒に溺れる。

極端に明るい未来とか、もう映画でも見たくない。見飽きすぎてる。だから、そうなんだよなー、明日も起きたら生活があるんだよ、という映画の方がなんか深く共感できる。今はもうそういう時代なのだ。

ザ・ライダー (字幕版)

ザ・ライダー (字幕版)

  • ブレイディ・ジャンドロー
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