映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ギウリア・ブラザール 監督「ホドロフスキーのサイコマジック・ストーリー 」3057本目

ホドロフスキーは原作だけなのに、タイトルに彼の名前を入れれば日本でもそれなりに売れるんだろうか。ネームバリュー‥‥

2019年に彼本人が監督した「ホドロフスキーのサイコマジック」っていう作品もあるんだけど、どう違うのか?TSUTAYAでこれをレンタルして、帰ってから調べてみたら、両方とも彼が提唱する”サイコマジック”をテーマにしてるけど、こっちはそれをモチーフにしたフィクション、あっちはノンフィクション(風)にサイコマジックそのものを取り上げたもの、ではないかと思われます。

この作品で、リアという若い女性はなぜか高圧的なヴィクトルという男に支配されています。何でも彼の言いなり、身ごもった子も彼の知り合いの手で堕胎させられる。そのあたりからリアは精神に支障きたしていく…。ある意味殺人だもん、しかも「おろせ」というだけの男と違って、自分の意思で病院へ行って手術着に着替えたりしてるわけだから、罪の意識が完全に消えるのは難しいだろう。ホドロフスキー先生のカウンセリングを受けても彼女が回復することはなく、せっかく距離を置いた男とも復活してしまって、むしろ精神の混迷は深まっていく。男のほうも、飲んだくれてバーで女をひっかけたりしていても、実はさいなまれ続けていた。

彼女の叔母の”治療”のほうがサイコマジックなんじゃないか?妖術のようだけど、深層心理を解放して新しい刷り込みを行うのは現代医療っぽい。子供だましのようだけど、弱ってる心には効くのかも。そもそも理屈じゃない痛みをそれで取り除いてもらえるならいいじゃないか。…彼女の最後のリベンジが、痛快に思えてしまうのでした。

この作品、むしろポランスキーに映画化してほしかったかも。原作ホドロフスキー、監督ポランスキーってどんな怖くて気色悪い名作ができるだろう…!!