映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

テオ・アンゲロプロス監督「霧の中の風景」3058本目

これもずーーっと見たかった。久々にTSUTAYA店舗に行ったので希少DVDをレンタル。

アンゲロプロス監督作品は、大人が出てくるイメージがあったので、あれ?ヴィクトル・エリセ?(それは「ミツバチのささやき」)

いろんな人がいる。伯父さんは悪い人じゃないけどまるであてにならず、旅芸人は乗せてくれただけで友達になれたのはオレステスだけ。悪いトラック運転手。それに味を占めて別の男を誘うヴーラ。痛かったし嫌だったのに。一発の弾丸で2人を射止めることはおそらく無理だとはいえ、この子たちが霧の中たどりついた対岸に、想像のあの風景がちょうど見えるわけはないのだ。この子たちの結末は決して明るく描かれていないけど、もしその後生き延びていたとしたら、ヴーラが売春を続けて弟を養いながら、男たちに「ドイツのお父さんに会いに行くの」と言い続けて苦笑される未来くらいしか想像できない。アルバニアで少し年をとっていっぱしの娼婦になるか、どこか親切な食べ物やの世話にでもなりながら大きくなるかだ。

だいいちギリシャからドイツは、地図を見てみると笑ってしまうくらい遠い。ギリシャからはアルバニア、モンテネグロ、ボスニアヘルツェゴビナ、クロアチア、スロベニア、オーストリアを経てやっとドイツだ。今は飛行機でテサロニケからミュンヘンまで2時間半もあれば着くけど、列車なら一昼夜かな…。どんな方向で向かっても、川の向こうがドイツっていう国境はない(←いちいち調べて興をそぐようなことをするな、私)。

やけに感傷的な、日本の1980年くらいのやたらヌードの出てくる映画みたいな音楽がなんか変な感じだった。

でも美しい映画だったのだ。幼い姉弟は安寿と厨子王だ。あまりにも無知で無垢。第二次大戦前の、リリアン・ギッシュが出てた映画みたいだ。ここまで純粋をつきつめようとする映画は、アメリカや日本からはもうなかなか出てこない。 

そもそも、なぜこの子たちは家を出たのだ。母はどうしたのだ?と思って最初から見直してみるけど、なんのヒントもない。母の生死すらよくわからないけど、どうしても出たいような家だったのだ。旅芸人も食い詰めて衣装を売り始める、子どもたちは家を出る、そんな時代のギリシャを描いた寓話だったのでした。

DVD借りると特典映像が付いてるのが良いですね、VODと違って。池澤直樹の監督インタビューが見られてすごくよかったです。

霧の中の風景 [DVD]

霧の中の風景 [DVD]

  • タニア・パレオロゴス
Amazon