映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

フリッツ・ラング監督「スカーレット・ストリート」3085本目

<ネタバレあり> 

「西部魂」を見た流れで、U-NEXTに入ってるこの作品も見てみます。

真面目一本で来た初老の男と、ワルそうな若い美女。これは「嘆きの天使」「ロリータ」ものに決まっている。だいいちこの男の、堅そうでありながら夢に憧れる少年のような表情、ひっかけてくださいと言わんばかりだ。…あっこの二人「飾り窓の女」の人たちか。なるほど。そしてこの美女ジョーン・ベネットが、1977年版サスペリアの厳しい先生だったと今気づく。

男の妻は予想通りの悪妻だけど、彼が日曜画家として描いている絵がアール・ブリュットみたいで、やけに個性的。

若い女は案の定、典型的な悪女で最初に彼女を殴っていた男が情夫だったというのも定石。さてここからどう転がしてくれるか…というと、やけに気になっていたあの不思議な絵が

思わぬ方向に転がっていきます。それをまさかの妻が画廊で発見し‥‥。絵のくだりもドキドキしますが、初老の男の悪妻の元夫のくだりも意外な展開。でも、若い美女の裏切りを知った初老の男が逆上。美女を殺害したがちょうどいいところに彼女の情夫が戻ってきて…。

ふつうは追い詰められて破滅するキャラの初老の男。彼が辛くも逃げ切れた…と思ったところで、たまたま電車に乗り合わせた新聞記者たちに「殺人者は自分の胸に一生、判事と陪審と処刑人のいる法廷を抱え続ける、という報いを受ける。裁かれる方がマシだ」と言われて揺れる。

さあ最後にどんなどんでん返しが来る…?

「飾り窓」の感想にも、はからずも「マルホランド・ドライブ」のことを思い出して書いたけど、最後の場面の彼は死に損ねて屍のような人生しか残っていなかった…。

うーむ、フリッツ・ラングだ。やっぱり好きだなこの監督。

おとなしく絵を描き続けていたら大家と呼ばれる日が来たか?いや来ない来ない。美貌ので早逝の女性画家だから値が高騰したわけで、彼が普通に絵を売り出すことがあっても絵具代くらいにしかならなかったかもしれない。この設定で映画が始まったからには、彼が報われる結末にはならないのです。

誰一人希望を持たない結末。その乾いた絶望がラング監督の真骨頂だから…。