映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

アーシア・アルジェント 監督「サラ、いつわりの祈り」3118本目

「作家、本当のJ.T.リロイ」って映画を見て、事実は小説より奇なりだな~と思って”J.T.リロイ”名義の本を2冊読んで、やっとこの、偽ってた時代の映画にたどり着きました。本2冊もこの映画も、当然ながら絶版。本は図書館の書庫から引っ張り出してもらい、映画はVODにはもはや入らないけど買取になってるレンタルDVDなら借りられました。嘘を本当だと思って撮った映画を、すべて知った上で見るのは、ドキュメンタリーよりもっと面白い。という私の視点はすごく意地悪なのかもしれないけど…。

ジェレマイア少年の母親の娼婦役、迫力あるなー荒れてるなーと思ったら、これがアーシア・アルジェントか。監督・脚本・主演をこなした、ダリオ・アルジェントの娘。ぱっと見、カート・コバーンの妻のコートニー・ラヴかと思った。荒れっぷりが似てる。この役どころに完璧なキャスティングです。アーシア・アルジェントってレイプしたとかされたとか、いろんなことで騒がれたようだけど、彼女自身、多感な頃にひどく傷ついたりしてきたんだろうなと思う節もある。救われないまま大きくなった人が、傷ついた子どもの再生産サイクルが回していくんだろうか。…ジェレマイア少年を演じたジミー・ベネットはこの映画の後、17歳のときにアーシア・アルジェントからレイプされたと訴えている。一方のアーシア・アルジェントはハーヴェイ・ワインスタインから若い頃にレイプされたと訴えている女性の一人だ。

というようなコンテクストがあってもなくても、この映画の中の荒れた母サラの中には、傷ついた子どもが隠れてるように感じられる。

この作品はサラとジェレマイアが救急病院に収容されたところで終わってるけど、多分物語として面白いのはジェレマイアが少女の振りをして売春をしているところだと思うので、監督は続編を作る気まんまんだったんじゃないか?映画の出来は悪くはないけど、「続く」感がちょっと不満でした。

豪華ゲストは、見終わった後に日本語版予告編を見て初めてわかった!素顔のマリリン・マンソン(母の下着を着込んだジェレマイアを相手にする男の役)があまりに普通にキレイな顔をしててびっくり(ちゃんと眉も描いてる)。ウィノナ・ライダーは自動相談所のちょっとイヤな感じの職員、ピーター・フォンダも一瞬出ていて、教会の学校の年長の少年は「エレファント」のジョン・ロビンソンか。

特典映像として”J.T.リロイ”のインタビュー音声(どう聞いても女性)が入ってるのも、おかしいんだけどこのときは誰もそう思わなかったのかな。

面白い現象だったんだな…。最近、脳腫瘍を抱えたナチュラリストとして活動してたのが全部嘘だった、というドキュメンタリーを見たばかりなので、何度でも何度でも騙される人間の可笑しさを改めて追認した感じでした。 

サラ、いつわりの祈り [DVD]

サラ、いつわりの祈り [DVD]

  • アーシア・アルジェント
Amazon