映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

タカハタ秀太監督「鳩の撃退法」3137本目

佐藤正午はもう何十年もずっと愛読している作家なので、久々の映画化を楽しみにしてました。直木賞を受賞した「月の満ち欠け」よりこっちのほうが面白かった一方、複雑だし主人公が地味すぎて、まさか映像化されるとは。彼の小説に主人公としてときどき出てくる「津田伸一」は、女たちと「ほぇ」とか言い合ってる血圧低そうな男で、俳優でいえば森本レオみたいな、つかみどころのない、巻き込まれ型の男なので、藤原竜也はイメージから遠くて、どう料理するんだろうと思っていたけど、意外と別ものとしてハマりましたね。電通が入ってド派手な広告打ったりして、大丈夫かなーと心配もしてたけど、下積みの長いファンとしては、こういう表舞台の人たちが面白いと思ってここまで盛り上げてくれてよかった。何より、制作サイドが本当に面白いと信じて、原作や作家をリスペクトしていることが伝わってきたのが嬉しい。(結末はちょっと大衆におもねた気もするけど、まぁ想定の範囲かな)

ぬまもと君いいですね、合ってますね。デリヘル嬢たちも浮気妻たちも、デリヘルの社長も床屋も影の黒幕も。編集者の女性が土屋太鳳というのはちょっと意外かな、私のイメージだともっと市川実日子とか。風間俊介の暗さはイメージに近いけど、バーテンダーってもっと目立たない人かなという気もする。佐津川愛美はちょっとワルイ女がうまいけど、小説を読んでいたときは地味で普通の人だと思っているから、夫との会話には映像よりずっと緊張が走りました。

音楽もよい。佐藤正午っぽくはないけど、この映画として、よくわかってくれてる感じ。 

この監督の作品はあまり見てないかなと思ったら、映画ブログを書き始める前に見た「ホテル・ビーナス」はかなり好きな作品でした。ウラジオストクのホテルで撮ったと聞いて、いつか行ってみたいと本気で思ってるくらい。監督はテレビの人、バラエティの人、というイメージだけど、津田伸一好きなら趣味が合うはず!

ストーリーはわりと原作に沿ってると思いました。エンドロールに文字で見せたりするくらい、大切にしてる感がある。登場人物が多くて複雑にからみあうので、映像で人の顔を見られるほうが、活字を追うよりずっと筋がわかりやすい。しかし、この映画を見て初めて作者のことを知って、上下2冊の大長編の原作を読んでみようと思う人は、面白いと思うんだろうか。ちょっと想像つかないな。

佐藤正午の作品はたいがい舞台が地元の佐世保あたりだけど、雪が降り積もることが重要な場面があるので北陸の富山にしたんだろうな。深夜営業の喫茶店やバー(これは高円寺)は、かなりイメージ通りだった。

なんだか、実際に存在する(あるいは、した)現実を、佐藤正午はあのように小説に書き、タカハタ監督はあのように映画にした。という気分ですねー。違う表現もあるけど同じ事件。とても面白かったです。満足。

さて、原作、3回目読むかな‥もう少しヒマになったら…。

「鳩の撃退法」気に入った人はぜひ「身の上話」あたりも読んでみてください!もっとコワくて面白いから!