映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ジャン・ルノアール監督「ピクニック」3144本目

1936年に作られた、フランスの巨匠未完の短編、だそうです。パリから馬車でやってきた郊外の川辺のレストラン。ブランコで子どものように遊ぶ母と娘。草の上の昼食‥‥まさにルノアールの絵画の世界。彼の絵の裏には、この映画みたいに、都会から郵便馬車を借りてきたという事情や、その町の男たちが都会の娘をじろじろ見ていたことなんかもあったんだろうな。

純真なお嬢さんアンリエットを演じているシルヴィア・バタイユ、可愛い…。その町の男アンリのボートで彼のとっておきの場所に連れて行かれて、鳥の声を聴きながら二人で座っていると、なんで涙が流れるのか…。こんなに若くて無垢だった頃の気持ちが思い出せないけど、婚約者がいる身でロマンチックな気持ちになっても、今の一瞬だけのことだとわかっているからかな。

こういう映画を見ると、自分の祖母にもこんな瞬間があったのかもしれない、という気になる。もちろん母にも。普通に平凡に目立たない人生を送っている人に、本当に平凡でつまらない人なんていない、という気がしてくる。誰の人生も自分のと同じように大事だと思える。殺伐とした話ばかり聞こえてくるけど、こういう気持ちを大事にしよう…。