映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

原一男監督「全身小説家」3229本目

瀬戸内寂聴さんの訃報を受けて、彼女の主だった作品を読んでいたら、井上光晴とのロマンスとそれに続く出家という話があちこちで語られていて、この人のことも見てみなければと思った次第。

監督が原一男だからか、赤裸々に本人の日常をさらけ出してますよね。着物で女装して踊るきみょうな動きとか、弟子の女性たちに片っ端から甘い言葉をささやくのとか、こんなオッサンになんで誰も彼もコロっといってしまうのか、まったくもって謎。開けっぴろげのようで、実は演出過剰。「全身小説家」というのは例えば、言わなくていいのにわざわざ”シェケナベイビー”とか言う”生きるロック・レジェンド”みたいなものかな。映画の主人公でいえば「クヒオ大佐」?多分もともと虚言癖があったんだろう。(嘘つきみっちゃんと呼ばれていたくらいで)そんな少年が、小説家になったのは生活の一環だったんだろうか。

みっちゃんがついた嘘の部分は、みょうに出来がいい再現ドラマになっていて、リアルなだけでちょっとショボくも見えるドキュメンタリー部分と並べて見ているうちに、美しい虚構を夢見る気持ちになんとなく共感できてしまうのが不思議。

しょうもないところもあるけど、なんだか無邪気で子どものような人だったんだな。とても面白かったです。

全身小説家

全身小説家

  • 井上光晴
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