ペパーミントキャンディーの世界だ。絶望(比喩じゃないやつ)のあとのインスタント解脱、そこからやっと壊れ始める人格。安易な救いなんてどんな宗教でもないのだ。
自分を傷つけたアイツはきっと今頃、宗教に救いを見つけたり、家族と笑いあってアイスでも食べてたりするのが現実なのだ。極悪な顔をした悪魔を想像するより、もっとキツイその部分に焦点を当ててしまった映画です。
ソン・ガンホが「パラサイト」ではいい役すぎてどうなんだろうと思ったりしたけど、この人は”韓国の良心”のような象徴的な役者さんなんだな。昔の日本でいえば寅さんの渥美清みたいな。彼が画面に出るだけでしみじみする。彼がいいことをすればうなずき、悪いことをしても信じてみようと思う。(cf アメリカの良心ジェームズ・スチュアート…今ならトム・ハンクスかなー)
主役の女性を演じたチョン・ドヨン、自然ですばらしい演技でしたね。韓国の女優さんって、主役級の年齢不詳の美女たちとクリクリパーマのおばさまたち、というイメージが強いけど、こういう普通の人っぽい女優さんがいるから映画が締まる。
この映画は、コミカルな感じで進むのかなと思っていたら、中盤に突き落とされる。二回見ると、最初から不幸の空気があるし、たくさん伏線が張られていたのにも気づきます。
夫を亡くしてソウルから密陽という町に引っ越してきた母子。地図で見たら釜山の近く、朝鮮半島の右下角というあたりで、ソウルからははるか彼方です。目立つだろうな、お金持ちに見られて、ねたまれたんだろうな。ソウルにもいづらかったんだろう、夫を亡くした女ってずっと見られるから。
ソン・ガンホがまた、ひたすら優しいんだけど、間が悪いんだよな…。
ストーリーをちゃんと理解したくて2回見たけど、なかなか重いです。でもただ暗くて重いんじゃなくて、人間、とか生きるってことを真剣に捉えてこの映画を作ってくれている、という感じがして、いやな気持ちにはならない。
小さいレベルでなら、あらゆる人に共通してあるテーマなのだ。牧師も言ってたように、人を赦すのが一番むずかしい。でも赦せないかぎり、自分の心の中の憎悪っていう悪魔にさいなまれ続けるしかない。
やっぱりいいな、この監督。