<ネタバレあります>
トルコの現地の人たちの暮らしが垣間見られて面白い。たとえば、男も女も、白い酒を飲んでる。水を入れると白濁する、ウゾみたいな強い蒸留酒に違いない。
老人と息子、老人が惚れた娼婦の3人。彼らはドイツに住むトルコ人。息子は大学教授をやってる。章のタイトルが誰かの死だったな、老人が倒れたからそのまま逝ってしまうのか、と思ったら、娼婦が息子と寝たんじゃないかと疑って彼女を殴る、彼女倒れて頭打つ、打ちどころ悪くまさかの即死…。イェタルってのは彼女の名前だった、そういえば。…で、息子は彼女の一人娘を探して人口2千万都市イスタンブールを訪ね歩く。
トルコって中東っぽい風情があるのかなと想像してたけど、古いヨーロッパの都市がそのまま残ってるみたいで素敵です。ヨーロッパだけどイスラム教徒が多いのが面白いけど、イスラムっぽいタイルや丸屋根はあまり目につきません。
次の場面で登場するイェテルの娘はトルコで社会活動を行って、名前を変えてドイツに逃亡している。滞在費を浮かすため学食に潜り込むその大学で、例の息子が教えてるんだけど、まだ彼は彼女のことを知らない。見てる者だけが、やきもきする。だいぶ映画を見て知恵のついてきた私は、もしかしたらこの映画は、観客をやきもきさせ続けて、このまま終わるのかもしれない、と予感しはじめる。
なんか、アッバス・キアロスタミの映画を見てるような気持ち。人間の行いが自然の営みの一部のように見える。愚かだったりするけど、どうも愛おしく思えてしまう。「友達のうちはどこ」のつづら折りの道を上っていくみたいに、エンドロールの背景で、息子はじっと入江に座って、釣りに出た父を待ち続ける。父が戻ってきた気配を探したけど見つけられないまま終わる。
…みんな、ちょっとずつ思い込みがあるから、愛があっても思いのほうが先行してすれ違う。すれ違った痛みを知った後で、目の前にいる人を大切にしようと思う。
イスタンブールのドイツ書店に行って、近くのレストランで「人生って…」とか思いながらしんみりと白濁したお酒を飲みたいなぁ、という気持ちになる映画なのでした。