映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

加藤泰 監督「沓掛時次郎 遊侠一匹」3254本目

多分なにかで勧められてたんだろう、普段私が見るジャンルじゃないけど見てみました。中村錦之助の演じる時次郎はやくざ者。一宿一飯の恩義で、何の縁もゆかりもない男を殺めたところ、その男に「妻と息子を頼む」と言い残される。事情を話して彼らを親戚の家へ送り届けるのに同行する時次郎。

一昨日見た成瀬巳喜男監督の「乱れ雲」は現代劇で、誤って自動車事故で司葉子の夫を死なせてしまった加山雄三、という物語でした。「遊侠一匹」でも「乱れ雲」でも、夫を死なせた男と残された妻が好き合ってしまいます。「遊侠一匹」の時代は、命を奪ったのが誰であれ、頼まれたものであれば恨むのは筋違いのようで、周囲も二人が一緒にいることをとがめません。「乱れ雲」の加山雄三は一切運転者側の過失なし、無罪、とされたけれど、世間は「とんでもない!」だし、妻も最後まで忘れることはできない。

私も誰かに、どんな形であれ夫を殺されたら、恨みというより死の刃みたいな恐ろしいイメージが強すぎて、一緒になることはできないと思うけど(※もし夫がいたら、の話だ)、全般的に世の中はだんだん不寛容になってるんだろうか、という気もする。

商業映画ができて100年くらいですかね、映画はその時代の価値観を映すので、そろそろ文化人類学的に?世間の倫理観の変遷を経時的に分析する研究とかやってる人がいないのかな、いたら結果を見てみたいなぁと思いました。