映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

スパイク・リー監督「アメリカン・ユートピア」3266本目

渋谷パルコの劇場で見よう見ようと思ってたのに、もうVODに降りてきてしまった。これスパイク・リー監督なんですね。そしてタイトルの「ユートピア」は上下がひっくり返っている。邦題は「アメリカン・ディストピア」が正しいんじゃないか?

それにしても素晴らしい。歌もダンスも美術も演出も完璧だ。なんでこんなに素晴らしいと感じるんだろう、そしてなぜ、「ストップ・メイキング・センス」のときも、感想に「素晴らしい」という言葉くらいしか残せなかったんだろう。あまりにもこの1本(1つの舞台)の完成度が、完結度が高すぎて、他につながっていかないからかな。何とも比較できないし、影響を受けて何かを作ることも難しそうな。

この人は「ストップ・メイキング・センス」から今まで、何をしてきたんだろう。すごく真面目に自分の周りの全世界を見つめてきて今があるんだろう、という安定感。なにか、自分を信じて頑固に頑固に生きていくことの意味を見せつけられたようで、意図してないかもしれないけどすごく勇気をもらってしまった。ニューヨークにも信頼に足る人間がいて、何十年も自分独自のやり方で人を信じて、尊厳を尊重しつづけてきた人がいる。そんな人生のすべてを詰め込んで作り上げた舞台だから、見る人にそれが届く、ということなのかな・・・・。それくらいしか言えないです。

VODのレンタル期限中、何度も見てみようと思います。

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5回くらい見たかな。そろそろレンタル期限が切れるので、もう一度感想を書いておきます。

何度でも何度でも見る。デヴィッド・バーンより変な踊りをぐにゃぐにゃ踊りまくりながら見る。最後「ロード・トゥ・ノーウェア」でいつ舞台から降りたか、何度も同じ個所を見直す(結局降りる瞬間は映ってなかった)…これが家で見る醍醐味だ。

冒頭、脳の模型を持って出てきたときは、まるでTEDトークみたいだ。デイヴィッド・バーンの風貌、表情、服装はTEDスピーカーだし(TEDスピーカーのほうがよっぽどカジュアル)なのに声一発、最大ボリュームで叫ぶ。最先端の哲学みたいでもあり、インドの太古の詩人のようでもある歌詞。イギリス的なルックス、ロンドンではない英国辺境の頑固さや強さと、ニューヨークの豊かさがどういうわけか共存してる。全体の人数の割に多すぎるパーカッションで、土着の、民族的な音楽のおもむき。メロディはシンプルだけどコードは複雑。世界が一つのバンドだったら?を体現したような、ダイバーシティそのものの構成。ダンサーの二人は属性が真逆で、同じ動きをしても違うことをしてるような感じがするのに、二人で踊っているのを見るのが気持ちよくて仕方がない。

…不思議な点をいくつ挙げてみても、どうしてこんなに惹きつけられるのかちっとも説明できない。不思議でまた見てしまう。もうこれDVDで買えよ私。

それより、こうなると「ストップ・メイキング・センス」が気になって仕方がないので、これから再見してみることにします!

アメリカン・ユートピア

アメリカン・ユートピア

  • デイヴィッド・バーン
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