映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

リドリー・スコット監督「最後の決闘裁判」3297本目

<ネタバレあります>

リドリー・スコット監督が話題なので、見てみました。(ハウスオブグッチも早く見たい)

テーマがいいですね。「羅生門」か、はたまた「サロメ」か?…大人でも自分を守るために嘘や見栄で取り繕う。善も悪も演じきれる二人、マット・デイモンとアダム・ドライバーの対決ってスリリングです。

女の決断も興味深い。この時代も今も同じく、女性が自分の名誉のために立ち上がることが手放しでほめられるわけじゃない。(教会による少年事件とかを見ると、男性も同じようなことかもしれないけど)

決闘で勝ったものを正とするなんて、裁判と関係ない、ただの勝ち負けだ。なんて頭悪いんだろう、この時代のひとたちって。正義ではなく、よりどころとなる基準が欲しいだけってことだよな。それが人間の本性なのかもしれないけど。

決闘直前までの人間もようをがっつり描き切れた時点で、勝ち負けがどう終わっても映画自体は面白いに決まってるのだ。人間は残酷で、白っぽい灰色でも黒っぽい灰色でも、黒と言い切ってしまえばスッキリする。

この作品では妻をあまり「サロメ」的には描かなかったんだな。生き延びて子どもを育てたことは、強姦を一生黙っていた人と比べて精神的に少しでも楽だっただろうか。彼女は「決闘で人が一人亡くなった」という十字架を背負って生きたってことだ。

こんな結末で、カタルシスなど何もないのに、見終わって満足感があるのが不思議。面白かったです。