映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

アニエス・ヴァルダ監督「ラ・ポワント・クールト」3301本目

タイトルは、この映画に出てくる夫婦の夫のほうの生まれ育った町の名前らしい。映画ビジュアルの、男女の顔が重なってる写真、完全に「写真美術館」に展示されてる往年のフォトグラファーの作品に見える。彼女のビジュアルセンスは卓越してるよなぁ。デザイナーとかになっても良かったと思うけど、彼女は洋服よりもっと人間になまなましく近づきたい人だったのかな。

不思議と、この次に作られた「クレオ」より「顔たち、ところどころ」みたいな町歩き映画に感触が近いのが面白い。内容は「クレオ」や「幸福」と同様、ぱっと見にはわからない内面の複雑さを描いてると思うけど。

編集がアラン・レネってどういうことなんだろうな、「夜と霧」「24時間の情事」「マリエンバード」より前だけど編集者としてクレジットされてる作品は他にない。「アニエスによるヴァルダ」にしっかり登場してたらしいけど見落としてたので、見直さなければ。

内容についていうと、田舎の港町(海じゃなくて湖?)出身の夫に対して妻のほうはずいぶん都会ずれしているというか、理屈っぽく哲学っぽく、めんどくさい女と感じられます、周囲は漁網や渡し船ばかりだから。妻だけ見てると、顔立ちや画面の雰囲気からも、ベルイマンの作品だっけ?とか思ってしまう。それと、打ち上げられた猫の死体や幼い子どもの死。汚染された貝を売って逮捕される漁師。妻は夫の故郷に彼を追って離婚を持ち掛けるんだけど、初めて訪れた港町で彼と向き合ううちに、かすかに気持ちに変化が起こる。最後の夜、妻は言う。「でもわかったの。二人の絆は私たちより強いと」若いころの恋愛が、母性愛のように変わることのない愛に変わったと。ヴァルダ先輩すごい、未来の夫と結婚する前に作ったデビュー作にして、自分と夫との末路を予言している。

このあと「アニエスの浜辺」を見てから「アニエスによるヴァルダ」を見直さなければ。それにしても「冬の旅」は中古DVDが18000円とかで、とても見られる気がしないな…図書館探してみるか…。