映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

リュック&ジャン=ピエール・ダルデンヌ監督「息子のまなざし」3333本目

1997年の「イゴールの約束」の5年後。ちょっとスリムになったパパは、今度は複雑な思いを抱えた父親となっている。堅い仕事をしている真面目な男だ。少年院にいる男の子を引き取って製材を教えている。観客はわりと早い段階から彼の葛藤を共有することになる。よいキリスト教徒でいようとか、そういうことを思ってるんだろうか?自分の敵に当たる少年を保護して更生を促すのか。でも怒りと憎しみは押さえつけられてるだけで無くなったわけではない。

「イゴール」より、常時緊迫してる。この父親の理性にいろんなものが依存している。現実を受け入れて冷静でいるように見える彼は、車の中で少年に自分が犯した罪について繰り返し、何度も何度も訪ねる。間を置くけどちゃんと話はつながってる。少年のほうは、その不自然さに気づいてたんだろうか。

そして告白と逃亡、追跡。父親は自分の息子を絞殺した少年に固執する。首に手をかける。殺されるって思っただろうな、この子。でも生きていた。この場面がまた長回しなんですよ。

彼らは作業場に歩いて戻ってくる。しばらく緊迫した空気が流れるけど、作業を再開する。

後見人の話は流れるんだろうな。父親は数年後に、息子のこともこの子のことも思い出すだろう。この子はこの日のことを一生背負っていくんだろう。生きていくって重たいね…。

オチもカタルシスもないのはいつものことだけど、緊迫の時間の迫力が印象的だったので、今まで見た中では特によかったと思います。

息子のまなざし(字幕版)

息子のまなざし(字幕版)

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