映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

吉田喜重 監督「血は渇いている」3336本目

この監督はほかにも刺激的なタイトルのとがった作品をたくさん作っているようです。「エロス+虐殺」は見たけどユニークで面白かったなあ。

で、これもまたスリリングでスタイリッシュ。当時の若い女優さんたち(芳村真理とか)がいっしょうけんめい悪い女を演じてるのが、なんだか初々しくてエロチックです。リストラに対抗して公衆の面前でピストル自殺をしようとする佐田啓二。この映画のなかでは始終、苦悩の表情です。そこに目を付けた生命保険会社のマーケティング担当が芳村真理。ピストル自殺を試みる瞬間を再現した写真をポスターにして、ビル街にでかでかと張り出す。最後はそれが降ろされる。このシュールな感じ、素敵です。

1960年ってどんな時代だったんだろう。高度成長期、イケイケかと思ってたけど、生命保険会社で大規模リストラをしようとしたりしている。ピストルは戦争帰りの家族のもの、というあたりが戦後間もない世相を映してます。

佐田啓二と芳村真理以外の出演者をあまり知らないけど、よくよく調べてみたら馴染みの人たちだった。なかなかのワルなのになんとなく憎めない三上真一郎は、すごく見覚えがある。いろんな映画やテレビに出てたんだな。佐田啓二の妻は岩崎加根子。この人もかなり見てるな…。

”社会のひずみを背負ってしまった地味な男の異常な物語”と捉えると、つい最近の作品にもありそうなテーマです。あまり声高に訴えてないけど、マスコミ批判、企業の宣伝批判も大きなテーマです。

とにかく、この時代のクラブとかキャバレー、オフィスとかの造形がいいし、男性も女性も端正できれいで緊張感があって魅力的。この映画でもいいもの見せていただきました。

血は渇いてる