映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

大庭秀雄 監督「君の名は 第一部」3339本目

最後に「。」が付かない方。新海誠じゃない方、1953年のオリジナルです。いやオリジナルはラジオドラマか。

岸恵子が可憐な美少女で、佐田啓二も好青年を絵に描いたよう(さっき見た「血は渇いている」ではくたびれかけたサラリーマンだった)。リリアン・ギッシュの時代のハリウッド映画の男女みたいに、清潔で清潔で真っ白な心に一点の曇りもない、というふうな美男美女だ。佐渡へ渡る連絡船の上で泣き崩れている真知子(東京からずいぶん離れてるのに、たまったま近所の知り合いが乗り合わせて、同情してくれる)。薄暗い数寄屋橋の上で待ち続ける春樹に、哀愁を盛り立てる歌が流れる。

「真知子巻」がいかに流行ったか、よく話してくれた母は1953年にはまだ18歳で、家から高校に通ったし、業後は看護学校の寮にいたはずなので、自分では銭湯に行く時間をずらした経験はなかったんだな。(でも「真知子巻」の写真は残ってる)

東京大空襲が今なら大災害か。戦火の中で出会って別れた美男美女。インターネットも携帯電話もない時代。テレビもか。新聞くらいはあっただろうけど。

戦争のために”パンパン”にならざるを得なかった女の子たちに「我々軍人のせいだ」とわびる笠智衆。

ごく日常的な普通の人たちの生活が描かれてるんだけど、再会できない二人のロマンチックさといったら。「邂逅」「めぐり逢い」より「めぐり逢えたら」くらい、すれ違いが何度も続く。ハラハラ、がっかり、ドキドキ。よくできたドラマだな。これを聴いていた人たち、見ていた人たちの生活にも辛いことがたくさんあっただろうけど、夢中になっている間は忘れられたんだろうなぁ…。(続く)