映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

吉田喜重 監督「秋津温泉」3345本目

「エロス+虐殺」「血は渇いている」ときたので、今度も尖った作品かなと思いつつ、タイトルが温泉で岡田茉莉子の静かで美しい横顔のビジュアルを見ると「伊豆の踊子」みたいなしっとりとした作品かなと思う。

あらすじを見ると、昔よくあった、いいかげんな男の薄情と一途な女の純情、という物語で、見る前からイヤになってしまう。都会の男なんて、たまに温泉に入りたいだけに決まってるじゃないか。都会で手近な女と結婚して、そっちも幸せにできずに、気晴らしに優しい女のいた温泉へ出かけるだけ。

…とここに「#MeToo」のようなものを持ち込んでもしょうがないので、この映画世界のよいところを考えてみる。

おろかに生きても賢く生きても、一生は一度だけだし、失敗を避けて地道に長生きするより、ときめきに一生をかけるという生き方もいいだろう。岡田茉莉子演じる新子は、病弱な男に同情し、心中しようという男に胸を引き裂かれ、たいした男でもないのにそのシチュエーションに恋をしたのかもしれない。彼が戻ってくるかも、と思うだけで光が差すような気持ちになる。それが大切だった。

彼女は彼と旅館を経営する未来を夢見てたんだろうか?そうは思えない。彼が都会に連れて行ってくれるかもしれないと思ったのか?それほど計画的だったようには見えない。むしろ、普段の生活は死んだも同然で、光が来るかもしれない、と待つことだけで生き延びてきたんだな。

うしなったあとで価値がわかって泣き崩れる男を、映画でも昔から描いてきたけど(例:「道」)、現代の映画の男性はもう、恋人を死なせた後で泣いたくらいでは赦してもらえない。これからの映画の構図は、女が自分を思う男を死なせて泣き崩れるっていう翻案が行われていくんだろうか…。ちょっと興味あります。