映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

黒澤明監督「わが青春に悔なし」3349本目

<ネタバレあります>

これも先日見た「白痴」のように、強いヒロインを原節子が演じた黒澤作品。あっちは一生お嬢様のままだけど、こっちはお嬢様が自分が熱くなれるものを追求して、スパイへと転じた男のあとを追い、貧しい農家に身をやつしたあと、農村改革運動のリーダーとなっていきます。

1947年バージョンの「スパイの妻」。

前半、まだ戦争に突入する前の大学教授のお嬢様である原節子、怒ってピアノを激しく弾きまくる姿も美しい。まるで外国の映画の一場面みたいです。

自分に憧れている朴訥な学生、糸川と、彼女が憧れている思想家の学生、野毛。藤田進演じるこの野毛をのちに彼女は追っていくことになります。野毛と、大学教授つまり彼女の父(大河内伝次郎)は髪型とメガネと思想が似ていて、娘が父に似た男に惹かれるのは自然だと思えます。

後半、原節子が夫の実家に入って、村人たちからの嫌がらせに耐えつつ農業に励むところは、これが現実なら嫌がらせにとどまらず暴力や略奪などもやられそうな設定だし、そういう演出をためらう黒澤監督じゃない気もするけど、ここでは精神力と体力で乗り切り、戦後は村人たちの味方となって農村の女性たちの生活改善に尽力します。ちょっと美しすぎるけど、映画には希望も欲しいよね。。。

それにしても「教授の美しい娘と学生たち」という設定、「みんなで無邪気にハイキングに出かける」という場面の既視感といったら。これって一つの男性の理想の類型のひとつ?