映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

黒澤明監督「一番美しく」3350本目

女子工員たちが「男子の半分でも自分たちにはできないというのか?」と言われて「違うんです、私たちたったの半分じゃなくて、男子の三分の二をやらせていただきたいんです」「でも男子の三分の二たって、大変な分量だよ」

…戦後生まれの女子としては、ここからもうムナクソ悪い。1944年なんて成人男子のほとんどが兵隊にとられて、役者がそろわないし映画を見るのも女性ばかりだから、女性が大勢出てくる映画を作ったんだろうに、その”か弱い女子たち”が「できもしない仕事をやると言い張るのが、男たちから見れば可愛いやら頼りないやら」…っていうんでしょうかね。日本でこの映画を作ってるときに、米英ではおそらく「男どもがいないとせいせいするわ」「ほんとだねぇ、邪魔が入らなくてよっぽど仕事がはかどるわ」とか言いながら、ぶっとい腕の女性たちが機械を回す映画を撮ってただろうに。

もっと作業できるならしれっと一日分の作業を半日で終えて「もう男子一日分の仕事が終わったので、私たち休憩に入らせていただきますね」とか言ってほしい。戦意高揚映画なので、そこは「終わったので、明日の分もやっときますね」にするくらいは譲歩しよう。

病気になっても私がんばります、がんばります、という精神論ばかり美しく描いていて、これじゃ科学的な軍隊に勝てるわけないし、こういう場所で育った監督に女性を男性と同じ人間と理解して描くことなんて、できるようになるわけないのだ。でも令和の時代になっても、「もう帰った方がいいんじゃない?」「いいえこんな微熱たいしたことありません」みたいな小芝居が日本じゅうの広告代理店その他のオフィスで繰り返されている気もする。日本はもう戦争しないほうがいいと思う、他のどの国にもこの精神論では勝てない。

いやーすごい映画だったけど、鼻水たらして復讐に燃える映画とかもこの子孫かもしれない。日本は勝てないのに、戦争に突入することを止める賢者の数も少ない気がして、不安でたまらないんだけど、コロナ禍では外国に逃げることもできないので、私はそろそろ山奥に隠遁してもいいですか…(やけに悲観的)。

一番美しく

一番美しく

  • 入江たか子
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