映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ヴィム・ヴェンダース監督「都会のアリス」3362本目

「まわり道」を見かかって、やっぱり時系列順に見ようと思ってこっちを先にすることにしました。

一瞬、ジム・ジャームッシュの初期の作品みたい?と思ったけど主役のキャラが違う。どう違うかというと(※自分の過去の映画経験にもとづく偏見に満ちた洞察)、ジャームッシュのほうはグループで旅をしていてこっちは単独(つれづれに人数は移り変わるけど、ヴェンダースのほうがソロ感が強い)ジャームッシュの主役は黒髪でシャイで黒っぽい服装をしていて中二感があるけど、ヴェンダースのほうは金髪で、気難しいけどオープンな大人。

ストーリーはあるようなないような、アメリカで知り合ったドイツ人母子と合流して待ち合わせるけど母だけ消えて、幼い娘のほうを連れてアムステルダム経由でドイツへ戻り、彼女たちの家を探すがなかなか見つからない。家に帰りたくない、ずっと旅を続けたい、という心理からくるものか。

この映画が作られた1975年は東西ドイツの統一前で、監督は西のデュッセルドルフ出身なのでアメリカに簡単に旅行できたんだろうけど、アメリカに対する強い憧れと強い違和感の両方がある。と思う。ブラック・ミュージックや自由には憧れるけど、コマーシャルで薄っぺらいやり方にはどうしても馴染めない。その後「アメリカの友人」を作り、USAではなく相対するキューバへ音楽を探しに行く「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」の旅に出る流れが、この映画を見ていて急に腑に落ちた。

旅に出たままなかなか故郷へ戻れない、一番会いたい人に会いに行ってもなかなか会えない、という筋書きも、いろんな映画で共通してる気がする。

全然、監督の意図とかストーリーとかが見えてこない映画だったのに、他のどの作品より、監督自身にちょっとだけ近づけた気がする、不思議な映画体験でした。