映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ヴィム・ヴェンダース監督「まわり道」3363本目

3部作の2つ目。

これがデビュー作のナスターシャ・キンスキーは、当時14歳。まだ女性になりきれてない少女で、少年と言われたらそうかと思いそうなくらい。でも目力がすごい。これはクラウス・キンスキーから受け継いだ目だなぁ。初めてパパの方を見たとき、どうやってこの野獣から美女が生まれたのかと思ったけど、ごつい骨格でなく女性らしい卵型の顔に造作を載せるとこうなるんだろうか。(まさか!?)

ウィルヘルムがすれ違う電車の中に見つけた女性は、マリア・ブラウンを演じたハンナ・シグラか…。あの作品では、ちょっと天然な感じのおっとりとした女性だったと思うけど、この作品では落ち着いた大人の女性って感じだ。

「都会のアリス」は母と子が離れ離れになっていて、家は見つからない…という状況のせいでちょっと心配しながら見ていたけど、この作品は大人ばかり(ナスターシャ・キンスキーは14歳だけど大人の一人みたいに振舞ってる)だからか、ファスビンダー作品みたいに不穏な音楽がずっと流れていて人も死ぬのに、気楽に見ていられる。

列車のボックス席に居合わせた者どうしで、なんとなく仲良くなって、一緒に食堂車へ行ったり…そういう「旅」らしい体験を懐かしく思いながら見ていると、ふと気づいた。この映画って、同じツアーの参加者どうしで、ホテルのラウンジでくつろいだり、だらだらと自由時間に観光名所の周囲を歩いてたりするのと似てるんだ。あっちの人と話したり、こっちの人と話したり。日常を離れた時間をゆるやかに共有するものどうし、その時間だけ知り合いでいる。だから懐かしいんだ。海外のツアーとかで期間が長いと、そのうち、普段は話さないようなことも無責任に話してしまうことがある。ツアーってなんとなくダサいと思ってる人多いと思うけど、パッケージツアーのロードムービーも面白いかも?みんな好々爺みたいな顔をしてるけど、全員訳あり、とか。

この映画は全面的に不穏なんだけど、なぜか見ていてちっとも暗い気持ちにならない。ウィルヘルムなり監督なり一人のドイツ人男性が、第二次大戦後に自分たちが背負った重い重い十字架を常に意識しつつ、前を向くためには、こういう形で吐き出すことも必要なのかな、とか思いながら見たのでした。