映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

ギレルモ・デル・トロ監督「ナイトメア・アリー」3371本目

<ストーリーに触れています>

サーカスとか見せ物小屋って、いかにもデル・トロ監督が好きそうな世界。(私も好きです)

これもまた監督の好きそうなビリケンさんみたいな異形のイーノク、確かにデカい。母親を死なせたけど自分もこんな姿になって、しかもたくさん縫われて「ヒョウタンツギ」みたいになってしまった。(リアルでなければ、もしかしたら可愛いかったかもしれない)
オタクを指す言葉として「geek」は「nerd」よりいい単語だと思ってたけど、「獣人」は「オタク」よりイヤだな。昔「Don’t call me a nerd!」って怒らせてしまったプログラマー青年はこの映画を見たら何て言うだろう。

出演者が盛りだくさんで、人間模様を見る楽しみの大きい映画だったと思います。ブラッドリー・クーパー(スタン)は、熱演だったけど心身共にすこやかな感じがあるので、病んでいく弱さや汚さはいまひとつ実感できなかった。「キャロル」ですごい演技を見せてくれたルーニー・マーラ(モリー)とケイト・ブランシェット(リリス)は今回はすれ違いです。二人とも相変わらず、めちゃくちゃうまい。ウィレムデフォーもいつも通りアクが強くてとてもいい。こうでなくちゃ。

悪魔の読心術(本屋に山積みされてるトンデモ本のタイトルみたい)のマスターを演じたのはやっぱり、デイビッド・ストラザーンだった。(「ノマドランド」と「黙秘」に出てたな)彼は赤い箱に入っていたメチルアルコールを意図的に飲まされて殺されて、読心術の秘伝書を奪われた、とみるんだろう。

メアリー・スティンバージェンは、純真だからこそするっと悪に陥れられる役割がありそうな予感がしていたら、やっぱり。

最後まで亡くした妻に会いたいと食い下がる富豪エズラは丸眼鏡で一瞬監督自身かと思ったけど、そのリチャード・ジェンキンズは「シェイプ・オブ・ウォーター」では隣に住んでた、冷蔵庫にたくさんパイをためてたゲイのおじさんか!見違えました。

ストーリーは、主人公が心理学者に陥れられたって見方が多いけど、彼女は自分のバッグの中の銃を見抜いた(負けた)男に読心術で勝ちたかった(彼を自分のものにしたかった)んじゃないかな、と私は受け取りたりました。それもまた、愛(かも)。

モリーがいったん逃げ出したのに連れ戻されたのは”死亡フラグ”だと思ったけど、ちゃんと逃げ切りましたね。デルトロ監督作品では最も清純なるものが生贄のように命を奪われることが多いけど、今回は彼女に幸あれと思います。

「I was born to be」だっけ、最後のセリフを「宿命」って訳したのはすごいな。字幕翻訳講座を受講しようと一瞬思ったけど、私にはやっぱり無理だわ。

特に演技面ですごく印象的なポイントの多い作品だったけど、驚きはなかったかな。デルトロ作品には新鮮な驚きを期待して見るので、そういう部分では「もっとやってほしかった」という気持ちも少し残りました。タイトルの「悪夢小路」そのものをガッツリ見せてもらえなかった不満感かもしれません。それこそがデルトロ監督のエッセンスであったはず。

1947年の映画化作品(「悪魔の往く町」)も見たくなるなぁ。U-NEXTにもアマプラにも出てないので、久々にコスミック出版の廉価版DVDを買ってしまいそう…。