映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

フロリアン・ゼレール 監督「ファーザー」3378本目

アンソニー・ホプキンスとオリヴィア・コールマン。

私の父も認知症になってしばらく病院や施設にいたので、もうしょっぱなから「ああ~~、そうそう」。記憶と想像と思考の区別がゆるやかになっていくので、世話をしてくれている人が自分のものを盗んだとかご飯を食べさせてくれないと思い込んだり。父の好きな、役場での仕事の話をしていたら、今いる場所が事務所に思えてきたり。そんなうつろう世界の中で、小さい子みたいに戸惑う父が可愛くてたまらなかったことを思い出します。

この映画のアンソニーもずっと混乱の中にいます。お気に入りの娘ルーシーは、アートの才能があったけれど、どうやら若くして事故で失ってしまったようです。いつもそばにいてくれたもう一人の娘アンは、ずっと独身だった?夫と一緒に住んでいた?最愛の人と出会ったのでパリに行ってしまった?…もはや何が客観的な真実か、見ているほうもよくわからなくなってきますが、これはアンソニーの映画なのだから、私たちがどう感じ取ろうと彼には関係ないのかもしれません。

最後はすっかり小さくなってしまった私の父みたいに、背中を丸めて泣くアンソニーが、ただただ少しでも幸せに残りの時間を過ごしてくれたら、という気持ちになりますね。

ファーザー(吹替版)

ファーザー(吹替版)

  • アンソニー・ホプキンス
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