映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

成瀬巳喜男 監督「山の音」3409本目

1954年の作品。私は娘時代の原節子の、悪い子の演技や怒った怖い顔が見たい。でもこの映画では冒頭から「いやぁねお父様、ウッフフフフフ」という、完成された”原節子美”を見せています。・・・えっこのお父様、実の父じゃなくて義理の父なの?で、夫は平然と愛人を作って家を空けることが多く、父もそれを苦々しく思っている(叱責しないあたりが、昔の日本だ)。

小津映画とも違うイヤな家。川端康成の原作のせいなのか、成瀬監督の演出なのか。妻は子を断念し、愛人は子を産む。

ラストの場面、新宿御苑のプラタナス並木のベンチで、山村聡が原節子に「息子と別れるのか・・・じゃあ私も妻と別れるから、私と結婚してくれないか」と言い出したらどうしよう、と一瞬思った。言うわけないけど。言わないけど、この映画はこの二人の映画だ。息子から「お父さんだって若いころは何もなかったわけじゃないでしょう」。なんとなくちょっとイヤらしいような、イヤらしいと思う自分の方がイヤらしいような、複雑な気持ちで誰も幸せにならない映画なのでした・・・。

山の音

山の音

  • 原節子
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