映画と人とわたし by エノキダケイコ

映画は時代の空気や、世代の感覚を伝え続ける、面白くて大切な文化だと思います。KINENOTEとこのブログに、見た映画の感想を記録しています。

イスマエル・ロドリゲス 監督「価値ある男」3425本目

三船敏郎の海外作品への出演で知られてる作品を借りてみました。これは・・・予想よりはるかに珍妙だ。(そこが最高)

「テキサスあたりで撮った、メキシコが舞台のハリウッド映画」ではなくて、タイトルから何から全編スペイン語のメキシコ映画じゃないか。1961年。すごいのに出たんだなぁ。アメリカの早川雪舟や満州の李香蘭も、これほどのアウェイ感はなかったんじゃないか。「ヒロシマ・モナムール」の岡田英二なんて、撮影地は日本だもんな。

この映画のなかの彼は、容貌になんの違和感もなく、口パクだけどちゃんとスペイン語でセリフを言っている。ときどき、立ち居振る舞いがやっぱり日本人的だなと感じるけど、めちゃくちゃ個性の強い主役なので、日本というより彼という男の特異性にも見える。

ここでちゃんと検索してみたら、日本から中南米への移民はメキシコが最初で、今年(2022年)は125周年らしい。映画の中にもアジア系の容貌の俳優が出てきますね。メキシコで日本人をメキシコ人として映画を撮ることは、こっちで思うより自然だったのかもしれない。

中国映画で、残酷なイメージの西太后を田中裕子が演じたように、この役をやるだけで”粗暴で無神経”な性格付けがされてしまう悪役を、あえて名声に傷がつきにくい外国人演じさせようという意図もあったのかも。

とにかく粗暴な役柄。でも黒澤映画で見覚えのあるミフネでもあります。何回か見たら完全にメキシコの俳優で作ったメキシコ映画に見えてくるんだろうか。

メキシコで彼がどう捉えられていたのか?「Mexico Toshiro Mifune」でググると英語のコンテンツがたくさん見つかります。当地では稲垣浩監督の「無法松の一生(英語では「リキシャマン」、1958年。ベネチアで金獅子賞。原作は1938~40年に書かれてる。1954年のフェリーニ「道」より前)」で知られていたとか、オアハカあたりの先住民にそっくりだったとか、紋付き袴でメキシコの空港に降り立った彼はすでにスペイン語で台本をすべて暗記していたとか。なんて面白いの。無法松って荒くれ者の悪役ヒーローだから、トルハーノのイメージと一致しますね。

ところで、この映画で彼が勝ち取った「マヨルドーノ」は「村の祝祭を取り仕切る、名誉ある族長」のような意味だけど、1990年代にメーリングリスト管理ツールとして名をはせた「Majordomo」(メイジャードーモ)と同じ語じゃないですか!ラテン語由来で「家長」の意味といわれてるけど、スペイン語の辞書を引くともっとたくさん意味が出てくる。何一つ接点のなさそうな2つの言葉が実は同じ語だったなんて面白い。(ツールを開発したのはBrent Chapmanという人でのちにGoogleやSlackでも働いてた現役ITコンサルタントだ。メキシコやスペイン語とのつながりは見つけられなかった)